■あの映画はちょっと長すぎたな
遠すぎた橋、非常に長い映画なのですが、ちょっとテレビ放映に際して大事なところがカットされ過ぎていたのが残念でした、でも吹き替え版は貴重だ。
遠すぎた橋、BSテレ東昨夜放映されました。若干大胆にカットされていましたのと、臨場感と悲壮感を際立てる映画音楽をそのまま省略し不必要なナレーションで塗潰していたのは、恰も歴史的名画に無理なポップアート風補修を施して台無しにする昨今の風情をそのまま反映させているようにも。特にオープニングに当る前奏曲の完全省略には驚かされました。
マーケットガーデン作戦、準備不足に情報不足と必要な人員や資材不足に調整不足、二転三転させる安易な大方針に責任だけは認めない最上層部、しかし上の方で決定した事なのだからと帳尻合わせ、マーケットガーデン作戦、この失敗は軍事作戦の失敗というよりも一般社会、具体的に言えば会社の事業計画や公共事業の方での日常風景ともいえましょう。
映画紹介でさてお友達からのお便りに、せめてタイガー戦車っぽい写真を選んではどうか、とお話しを頂きました。大丈夫考えています、89式装甲戦闘車の陸上自衛隊公式愛称はライトタイガーです。こうすると、ね、タイガー戦車っぽく見えてきたでしょう。さて。作戦はどうなったかは昨日放送の通り、今回は軍事作戦としてその失敗の背景をみてみたい。
ナイメーヘン道路橋、アルンヘム道路鉄道橋、マーケットガーデン作戦の要諦はこの二つの橋梁確保にありました。しかし、軍事的に無謀な作戦、といわれるマーケットガーデン作戦ですが、無謀というよりも軍事合理性を著しく欠いた作戦であった、といえるかもしれません。現代の軍事教範を俯瞰するならば、この非合理性が顕著に表れていますね。
マーケットガーデン作戦は空挺部隊と装甲部隊が連携する攻勢作戦です。この攻勢作戦では一般に二つの目的を有し、緊要地形や戦略目標といった地形の確保、敵野戦軍や機動戦力の撃破、若しくはその両方が目的とされます。ただ、本作戦ではドイツ軍部隊の駐留を作戦に反映できず、オランダ国内V2ミサイル基地破壊とドイツ工業地帯制圧が目的でした。
接敵行動-攻撃-戦果拡張-追撃、攻勢作戦は基本的にこの四要素から構成されています。まず接敵行動は敵前哨陣地を突破し主陣地までの前進、攻撃は主陣地に対する突破か包囲か迂回の行動、戦果拡張は攻撃を完了し防衛線を通過した上での次の地形目標や敵主力捕捉撃滅への前進、追撃は後退する敵に対して戦力再編成の機会を与えず攻撃を継続すること。
作戦を立案する際、攻勢位置、攻勢時間、非突撃攻撃位置、接近経路、OA前進軸、FCL最終到達予定線、LOA前進限界線、LD発起線、OB目標、PD発起地点、PLD展開予想線、ORP再集結点、支援火器位置、各攻撃段階時間、こうしたものを明確としておく必要があります。この明確化はビジネスプランや研究計画などにもかなり応用できるものですね。
攻勢位置、これはどの方面に対して攻勢作戦を展開するか、という事です。当たり前のように見えますが、戦略目標に近い位置への攻撃を行う場合には敵の増援部隊がどのように展開されるかを見積もる必要がありまして、しかも前進しすぎた場合には突出した部隊が孤立しかねません、当然地形や敵情を大局的な視点を踏まえて検討しなければなりません。
攻勢時間、攻勢を展開するには奇襲が不可欠であり時間をかけすぎますと攻撃を受けた側が防御陣地の構築や増援部隊の戦闘加入などを実施します。つまり攻撃した側の主導権の持続時間です。相手が攻撃を受けて浮き足立っている時間が何処まで続くのか、というもの。地形的に孤立している場合や航空優勢に制海権有無と総合的に判断するべきものです。
非突撃攻撃位置、砲兵火力等は間接照準射撃を展開する際に陣地適地を射撃の都度に陣地変換を行う必要があります。砲兵の任務は消耗に遅滞と阻止等があり、予備砲撃と反撃砲撃及び制圧砲撃は攻撃全般を左右します。ただ地形上無理な運用を行えば対砲兵戦により急激に消耗するか補給を受けられず攻撃が持続不能となりますので、作戦立案時要諦の一つ。
接近経路、作戦行動に必要な道路網や橋梁と地形防御を受けやすい経路など。攻撃を行う際に大部隊が集結しにくい経路や敵火力へ暴露する地形は避けねばなりません。歩兵部隊の徒歩攻撃では克服できない地形はありません、しかし山間部や森林地帯と大都市は移動速度が限られますし、橋梁等は破壊されますと作戦全般を継続するための兵站が困難です。
OA前進軸、攻撃を行う際に指揮官へ全般的な攻撃方向の範囲を示すものです。京都から北陸の敦賀へ向かう際に琵琶湖を湖西線に沿って向かうか東海道本線を米原から北陸本線へ向かうか、山陰本線を舞鶴と小浜経由で向かうか、広がりすぎますと火力支援網や兵站負担が増大しすぎる為、第一線指揮官へ与える裁量を明確化する為に示さねばなりません。
FCL最終到達予定線、作戦ではここまで到達できれば目的を達した、と見做す線です。逆に表現するならば、FCLを明確にしなければ作戦に必要な弾薬と燃料補給の総量も明確にできません。行先の無い旅を延々続ければ消耗するものも大きく、一方、FCLに応じて部隊の再集結点を示す必要があり、間違えても敵増援や敵火力網下に設定してはなりません。
LOA前進限界線、この線を越えて前進する場合、地形上攻撃部隊が孤立するか、兵站支援が届かなくなり戦闘を継続する事が出来なくなる限界線です。ただ、LOAは補給状況や戦闘損耗の度合いと敵の防御作戦立ち上がり度合いにより左右されるもの。従ってLOAに到達した場合でも作戦が可能である場合、第二段作戦立案等が幕僚と指揮官に求められます。
LD発起線、攻撃を開始する上で攻撃部隊の相互支援や的確な戦闘支援を受け前進を調整させるための作戦上の線です。重要なのは地図上にも現場の視点でも明確な定義のある境界線であり、且つ攻撃方向に対し各部隊のLDはほぼ垂直に設定できる点、そして何よりも重要な点は友軍の完全な勢力下にあり少しでも残敵が残る競合地域ではない、という点です。
OB目標、PD発起地点、PLD展開予想線、こちらは割愛を。ORP再集結点、交差点や特徴的な建築物と名所旧跡に丘陵地帯や橋梁と鉄道拠点など、攻撃を行った部隊は此処に自由に前進しますと細分化され各個撃破される危険性が顕在化します。以上の視点を踏まえ、作戦を回顧しますと、無謀な作戦というよりは軍事合理性を欠く点が垣間見えましょう。
METTTC,作戦立案には併せて幕僚心得として、M:任務の理解、E:敵の勢力と態勢、T:地形及び気象条件、T:我が方の任務遂行能力、T:時間的猶予、C:文民保護、これらを合わせたMETTTCという準備情報が必要となります。これにより優先目標の選定や敵陣地の弱点と間隙、彼我が利用できる道路と敵陣地や防御から逆襲を試みる敵部隊の集結予想地点など。
作戦は、これらの要素を全て統合した上で必要な機動の様式を図案化する訳ですね。すると、準備期間の短さと共にこれは輸送力や部隊の集結という影響は勿論、METTTCそのものの不徹底という状況も生んでいます。マーケットガーデン作戦を今日的に分析しますと、無謀な作戦というよりは合理性を欠く、という印象が大きくなるのではないでしょうか。
そしてもう一つ、マーケットガーデン作戦は急ぎ準備した作戦という特性と、補給物資が枯渇している為に停滞した進撃を攻撃の再興という形で実施された特性があります。この意味するところは、非常に大きな作戦でありながら、支援作戦という、通常軍事行動を行う際には当該地域の作戦正面へ敵が集中しないよう展開する作戦を行わなかった点がある。
ただ、一本の補給路や新劇進路に頼る運用が作戦上の最大の禁忌となったのは、このマーケットガーデン作戦の失敗が教訓となった点に留意すべきかもしれません。あくまでも攻勢作戦の要諦と事前情報の要諦は21世紀に数多の戦訓を反映させたうえでの教範が存在する事を忘れるべきではありません。もっとも、悪い見本を永遠に提示した事も事実ですが。
それならば拙速に作戦を行った事が悪いのか、と問われますと、映画は概ね事実を提示しており、拙速を慎重に載せ替えれば時機を失する懸念もあります。併せて政治的な必要性から求められた作戦である為、軍事合理性と政治的要素という水と油の問題領域もあります。しかし、これを我が国安全保障情勢に照らしますと、他人事には思えないのですよね。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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遠すぎた橋、非常に長い映画なのですが、ちょっとテレビ放映に際して大事なところがカットされ過ぎていたのが残念でした、でも吹き替え版は貴重だ。
遠すぎた橋、BSテレ東昨夜放映されました。若干大胆にカットされていましたのと、臨場感と悲壮感を際立てる映画音楽をそのまま省略し不必要なナレーションで塗潰していたのは、恰も歴史的名画に無理なポップアート風補修を施して台無しにする昨今の風情をそのまま反映させているようにも。特にオープニングに当る前奏曲の完全省略には驚かされました。
マーケットガーデン作戦、準備不足に情報不足と必要な人員や資材不足に調整不足、二転三転させる安易な大方針に責任だけは認めない最上層部、しかし上の方で決定した事なのだからと帳尻合わせ、マーケットガーデン作戦、この失敗は軍事作戦の失敗というよりも一般社会、具体的に言えば会社の事業計画や公共事業の方での日常風景ともいえましょう。
映画紹介でさてお友達からのお便りに、せめてタイガー戦車っぽい写真を選んではどうか、とお話しを頂きました。大丈夫考えています、89式装甲戦闘車の陸上自衛隊公式愛称はライトタイガーです。こうすると、ね、タイガー戦車っぽく見えてきたでしょう。さて。作戦はどうなったかは昨日放送の通り、今回は軍事作戦としてその失敗の背景をみてみたい。
ナイメーヘン道路橋、アルンヘム道路鉄道橋、マーケットガーデン作戦の要諦はこの二つの橋梁確保にありました。しかし、軍事的に無謀な作戦、といわれるマーケットガーデン作戦ですが、無謀というよりも軍事合理性を著しく欠いた作戦であった、といえるかもしれません。現代の軍事教範を俯瞰するならば、この非合理性が顕著に表れていますね。
マーケットガーデン作戦は空挺部隊と装甲部隊が連携する攻勢作戦です。この攻勢作戦では一般に二つの目的を有し、緊要地形や戦略目標といった地形の確保、敵野戦軍や機動戦力の撃破、若しくはその両方が目的とされます。ただ、本作戦ではドイツ軍部隊の駐留を作戦に反映できず、オランダ国内V2ミサイル基地破壊とドイツ工業地帯制圧が目的でした。
接敵行動-攻撃-戦果拡張-追撃、攻勢作戦は基本的にこの四要素から構成されています。まず接敵行動は敵前哨陣地を突破し主陣地までの前進、攻撃は主陣地に対する突破か包囲か迂回の行動、戦果拡張は攻撃を完了し防衛線を通過した上での次の地形目標や敵主力捕捉撃滅への前進、追撃は後退する敵に対して戦力再編成の機会を与えず攻撃を継続すること。
作戦を立案する際、攻勢位置、攻勢時間、非突撃攻撃位置、接近経路、OA前進軸、FCL最終到達予定線、LOA前進限界線、LD発起線、OB目標、PD発起地点、PLD展開予想線、ORP再集結点、支援火器位置、各攻撃段階時間、こうしたものを明確としておく必要があります。この明確化はビジネスプランや研究計画などにもかなり応用できるものですね。
攻勢位置、これはどの方面に対して攻勢作戦を展開するか、という事です。当たり前のように見えますが、戦略目標に近い位置への攻撃を行う場合には敵の増援部隊がどのように展開されるかを見積もる必要がありまして、しかも前進しすぎた場合には突出した部隊が孤立しかねません、当然地形や敵情を大局的な視点を踏まえて検討しなければなりません。
攻勢時間、攻勢を展開するには奇襲が不可欠であり時間をかけすぎますと攻撃を受けた側が防御陣地の構築や増援部隊の戦闘加入などを実施します。つまり攻撃した側の主導権の持続時間です。相手が攻撃を受けて浮き足立っている時間が何処まで続くのか、というもの。地形的に孤立している場合や航空優勢に制海権有無と総合的に判断するべきものです。
非突撃攻撃位置、砲兵火力等は間接照準射撃を展開する際に陣地適地を射撃の都度に陣地変換を行う必要があります。砲兵の任務は消耗に遅滞と阻止等があり、予備砲撃と反撃砲撃及び制圧砲撃は攻撃全般を左右します。ただ地形上無理な運用を行えば対砲兵戦により急激に消耗するか補給を受けられず攻撃が持続不能となりますので、作戦立案時要諦の一つ。
接近経路、作戦行動に必要な道路網や橋梁と地形防御を受けやすい経路など。攻撃を行う際に大部隊が集結しにくい経路や敵火力へ暴露する地形は避けねばなりません。歩兵部隊の徒歩攻撃では克服できない地形はありません、しかし山間部や森林地帯と大都市は移動速度が限られますし、橋梁等は破壊されますと作戦全般を継続するための兵站が困難です。
OA前進軸、攻撃を行う際に指揮官へ全般的な攻撃方向の範囲を示すものです。京都から北陸の敦賀へ向かう際に琵琶湖を湖西線に沿って向かうか東海道本線を米原から北陸本線へ向かうか、山陰本線を舞鶴と小浜経由で向かうか、広がりすぎますと火力支援網や兵站負担が増大しすぎる為、第一線指揮官へ与える裁量を明確化する為に示さねばなりません。
FCL最終到達予定線、作戦ではここまで到達できれば目的を達した、と見做す線です。逆に表現するならば、FCLを明確にしなければ作戦に必要な弾薬と燃料補給の総量も明確にできません。行先の無い旅を延々続ければ消耗するものも大きく、一方、FCLに応じて部隊の再集結点を示す必要があり、間違えても敵増援や敵火力網下に設定してはなりません。
LOA前進限界線、この線を越えて前進する場合、地形上攻撃部隊が孤立するか、兵站支援が届かなくなり戦闘を継続する事が出来なくなる限界線です。ただ、LOAは補給状況や戦闘損耗の度合いと敵の防御作戦立ち上がり度合いにより左右されるもの。従ってLOAに到達した場合でも作戦が可能である場合、第二段作戦立案等が幕僚と指揮官に求められます。
LD発起線、攻撃を開始する上で攻撃部隊の相互支援や的確な戦闘支援を受け前進を調整させるための作戦上の線です。重要なのは地図上にも現場の視点でも明確な定義のある境界線であり、且つ攻撃方向に対し各部隊のLDはほぼ垂直に設定できる点、そして何よりも重要な点は友軍の完全な勢力下にあり少しでも残敵が残る競合地域ではない、という点です。
OB目標、PD発起地点、PLD展開予想線、こちらは割愛を。ORP再集結点、交差点や特徴的な建築物と名所旧跡に丘陵地帯や橋梁と鉄道拠点など、攻撃を行った部隊は此処に自由に前進しますと細分化され各個撃破される危険性が顕在化します。以上の視点を踏まえ、作戦を回顧しますと、無謀な作戦というよりは軍事合理性を欠く点が垣間見えましょう。
METTTC,作戦立案には併せて幕僚心得として、M:任務の理解、E:敵の勢力と態勢、T:地形及び気象条件、T:我が方の任務遂行能力、T:時間的猶予、C:文民保護、これらを合わせたMETTTCという準備情報が必要となります。これにより優先目標の選定や敵陣地の弱点と間隙、彼我が利用できる道路と敵陣地や防御から逆襲を試みる敵部隊の集結予想地点など。
作戦は、これらの要素を全て統合した上で必要な機動の様式を図案化する訳ですね。すると、準備期間の短さと共にこれは輸送力や部隊の集結という影響は勿論、METTTCそのものの不徹底という状況も生んでいます。マーケットガーデン作戦を今日的に分析しますと、無謀な作戦というよりは合理性を欠く、という印象が大きくなるのではないでしょうか。
そしてもう一つ、マーケットガーデン作戦は急ぎ準備した作戦という特性と、補給物資が枯渇している為に停滞した進撃を攻撃の再興という形で実施された特性があります。この意味するところは、非常に大きな作戦でありながら、支援作戦という、通常軍事行動を行う際には当該地域の作戦正面へ敵が集中しないよう展開する作戦を行わなかった点がある。
ただ、一本の補給路や新劇進路に頼る運用が作戦上の最大の禁忌となったのは、このマーケットガーデン作戦の失敗が教訓となった点に留意すべきかもしれません。あくまでも攻勢作戦の要諦と事前情報の要諦は21世紀に数多の戦訓を反映させたうえでの教範が存在する事を忘れるべきではありません。もっとも、悪い見本を永遠に提示した事も事実ですが。
それならば拙速に作戦を行った事が悪いのか、と問われますと、映画は概ね事実を提示しており、拙速を慎重に載せ替えれば時機を失する懸念もあります。併せて政治的な必要性から求められた作戦である為、軍事合理性と政治的要素という水と油の問題領域もあります。しかし、これを我が国安全保障情勢に照らしますと、他人事には思えないのですよね。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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