北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

令和三年-新年防衛論集:ポストコロナ時代の防衛安全保障(3)陸上防衛体系に一大変革が必要

2021-01-04 20:00:19 | 北大路機関特別企画
■機動運用部隊へ転換の覚悟を
 ポストコロナ時代は将来の脅威に備えての種火のように維持する作戦単位ではなく現実的な緊張の増大を認識せざるを得ません。

 陸上自衛隊の問題は一部の精鋭部隊や機動運用部隊に任務が集中している状況です。思い切って機動運用部隊以外全て予備役部隊とすることで予算を捻出する、こうした覚悟が必要です。もっとも、これは即応機動連隊以外全て廃止しろ、というような海洋国家ならではの海空重視論者、言い換えれば陸上防衛不要論、極論同調というものではありません。

 しかし陸上自衛隊の作戦単位を再構築する必要があります、具体的には従来の歩兵主体の編成から、思い切って人員をコンパクト化し、機動運用部隊へ大きく転換する必要がある、ということです。これは有事の際に遊兵を生じさせないという視点であり、たとえば現在では即応機動連隊などの機動部隊と地域配備部隊の運用における温度差が大きすぎます。

 即応機動連隊。全国で次々と編成され、最終的には7個連隊を編成するという。そして既に編成されている第10即応機動連隊、第15即応機動連隊、第22即応機動連隊、第42即応機動連隊は全国狭しと訓練を続けており、その様子が広報されるとおり、まさに自衛隊の看板部隊となっています、しかし、その一方で即応機動連隊以外の部隊現状は、という。

 総合近代化師団。全国に即応機動連隊が次々と編成される一方、即応機動連隊が大量に使用する装輪装甲車などはそれほど増強されていません、すると、その装輪装甲車の供給源というものが本来問題視されるべきですが、これらは総合近代化師団や総合近代化旅団から供給され、言い換えれば重装備部隊が引き抜きに遭い、結果的に弱体化しているのです。

 地域配備部隊と機動運用部隊、もともと自衛隊はすべてが地域配備部隊であり、機甲師団である第7師団や第1空挺団などが機動運用部隊と位置づけられた一方、たとえば冷戦時代にソ連に近い北海道の師団を中心に機械化が進められ、本州九州の部隊は有事の際に北海道へと増援へ展開するためにも軽量で機動力を高める、という運用区分がありました。

 総合近代化師団、2000年代から自衛隊は南西方面の防衛警備を重視する際、北海道の総合近代化師団や新たにコンパクト化した総合近代化旅団をその任務に充てることとなりました、なにしろ当時の総合近代化師団や総合近代化旅団は、普通科連隊のうち一個を装甲車で完全充足していましたし、戦車は90式戦車の配備が進み火砲も基本的に自走榴弾砲だ。

 しかし、即応機動連隊を編成し始めた2010年代半ば、装輪装甲車が不足するようになると、この総合近代化師団や総合近代化旅団から引き抜くようになり、本来重装備で戦略予備の盤石な防衛力を誇るべき重厚な編成から装甲車を引き抜いてしまったのですね。即応機動連隊は、重装備を見慣れていない本州では確かに強力に見える、しかし実際どうでしょう。

 ここで総合近代化師団と総合近代化旅団のもともとの編成を見ますと、2000年代初頭に一個普通科連隊のみ装甲化するという編成を改め、総合近代化師団と総合近代化旅団の隷下の普通科連隊へ一個中隊の装甲車を充てていました、そしてもともと北海道の部隊は戦車部隊にかなり余裕を以て配備していましたので、連隊戦闘団は極めて重厚且つ強大でした。

 連隊戦闘団を総合近代化師団の普通科連隊が編成しますと、90式戦車14両、96式装輪装甲車20両、99式自走榴弾砲10両、120mm重迫撃砲12門、ここに軽装甲機動車や高機動車が付きます。即応機動連隊は16式機動戦闘車20両、96式装輪装甲車40両、120mm重迫撃砲12門、ですので装備を見れば遙かに重厚ですが、ここから装甲車を引き抜いてゆく。

 パトリアAMV,モワクLAV,三菱重工機動装甲車。一応陸上自衛隊は96式装輪装甲車に代わる新装甲車の導入を開始する計画です。ともに取得費用は機動装甲車は2億5000万円程度、パトリアAMVとモワクLAVが250万ドル程度、96式装輪装甲車が9600万円程度ですので、思い切った高級車を買うものだ、感心したものですが、これが揃えば話は変わります。

 装輪装甲車。100億円規模のMV-22可動翼機を考えれば、かなり割安な装備と思えるのですが、総合近代化師団総合近代化旅団の普通科連隊に元通りの規模まで装甲車を配備し、即応機動連隊へ配備するならば、年間40両程度の量産を十五年程度継続する必要があります。もちろん、これくらいは普通に行わなければ無責任という印象でもあるのだけれど。

 普通科部隊であっても、むしろ高機動車主体の普通科部隊こそ戦略機動性が高い部隊、という認識で考えるべきではないでしょうか。例えば現在、一部の方面隊に方面対舟艇対戦車隊として多目的誘導弾が集約配備されていますが、37セット配備されているのですから2セットと中距離多目的誘導弾を組み合わせて普通科連隊へ配備したら、どうかと一案を。

 遠征機動連隊としまして、中距離多目的誘導弾と96式多目的誘導弾とを普通科部隊に組み合わせて配備し、即応機動連隊の機動戦闘車隊に対抗し軽量な対舟艇対戦車隊を置き、重迫撃砲中隊とともに機動運用させるならば、とにかく装備が軽量なのですから渡河はじめ地形障害の克服には強力な威力を発揮できますし、軽量な分、整備負担なども比較的低い。

 戦車部隊も思い切って装甲機動連隊というような、即応機動連隊の機動戦闘車隊を戦車隊に置き換えた編成の部隊を置き、もちろん機動戦闘車隊は2個中隊20両編成ですので、戦車大隊と比較しますと戦車単体の攻撃衝力は低くなってしまいますが、73式装甲車の後継にアメリカのAMPVのような装甲車を充てられれば、機動打撃力は大きく発揮できます。

 共通装軌車両、陸上自衛隊は89式装甲戦闘車の車体とともに73式装甲車の後継となる装甲輸送車両を共通化させる方針で後継装備の開発を進めるとともに海外製装備の取得も視野に情報収集を進めています、これは結果的に89式装甲戦闘車の機動力にあわせる結果となりますので、形式としてはアメリカのAMPVとおなじ発想に向かっているのですね。

 AMPV,アメリカがM-113の後継に充てている装甲車で、実体は砲塔を有さないM-2装甲戦闘車、エンジン出力に大きな余裕がありまして、M-113では難しかったM-1戦車の機動力に随伴することが可能です。もっとも、コングルベルク社製のRWS遠隔操作銃塔を搭載すると化けます、コングスベルク社は30mm砲搭載RWSなんてのも造っているから、ね。

 装甲機動連隊と遠征機動連隊、この提案の意味するところは、単に格好好い名前を提示しているのではありません、現在の師団普通科連隊は1200名規模ですが、即応機動連隊は850名、人員を29%コンパクト化できるのですね。重要なのはこの視点です、即応機動連隊や水陸機動団へ、精鋭部隊に人員を引き抜かれた師団の定員割れは深刻な水準にある。

 予備役部隊ではないのですから、充足率を高めなければなりません、すると安直ですが、自衛官実員を増やすか、定員を下げて充足率を現実に即したものとせねばなりません。人員枠というものを考えますと、将来への枠そのものを減らす縮小改編は勇気が要りますが、相応に有事に際し遊兵とならないよう、思い切った機動運用部隊化を考えねばなりません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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全てを (ドナルド)
2021-01-06 23:21:54
良いアイデアと思います。現代では世界的に諸兵科混合を大隊レベルで実現しています。

1:師団起源も旅団起源も、全ての「普通科連隊」を850-900名規模の機動連隊とし、
・重機動連隊:2個戦車中隊+2個ICV/APC普通科中隊+偵察中隊(軽装甲)+対戦車中隊+重迫中隊+本部中隊
・中機動連隊:2個戦車MCV中隊+2個APC普通科中隊+偵察中隊(軽装甲)+対戦車中隊+重迫中隊+本部中隊
・軽機動連隊:偵察中隊(軽装甲)+4個高機動車普通科中隊+対戦車中隊+重迫中隊+本部中隊
程度の3分類と、空挺連隊と水陸機動連隊を加えた5分類だけとする。

全て2佐司令とする(世界標準に合わせる)。

#一等陸佐(三)を二等陸佐(一)に名前替えすれば、実質的に俸給や官僚組織上の位置づけも変わらないかと。

2:これを3個連隊で、4000-4500人規模の1個旅団とし(旅団規模として世界標準)、指揮官は陸将補とするが、星を1つに減らして准将相当とする(旅団規模として世界標準)。

#これも世界的な扱いを、将補を少将から准将に、将を将(一) = 大将相当、将(二)=中将相当、将(三)=少将相当にすれば、俸給や官僚組織上の位置づけも変わらないかと。

3:師団は実質的には「師団司令部」とし、2-3個旅団を冷夏に収める前提で編成すれば良いかと思います。

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