北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】潜水艦vs無人機,MQ-9ソノブイSSQ-62F搭載とMQ-8ハイブリッドASW構想

2021-04-12 20:05:25 | 先端軍事テクノロジー
■特報:世界の防衛,最新論点
 無人機は毎年の技術進歩に驚かされるばかりですが、ASW対潜水艦作戦という分野にも遠くない将来に目覚ましい進歩をみせるかもしれません。

 海洋自由原則に基づく自由な交易が維持される事で、日本は世界と繋がり繁栄を維持しています。この通商路を潜水艦脅威から防護するべく海上自衛隊ではP-1哨戒機による広範囲の対潜哨戒、護衛艦及び艦載機による対潜哨戒、海底マイクロフォン網により警戒に当たっていますが、この対潜戦闘について、近年、新しく無人機の流れが、始まったもよう。

 アメリカ海軍はGA-ASI社が開発するMQ-9A無人偵察機によるASW対潜哨戒運用試験を実施したとのこと。試験に用いられたのは最新型のMQ-9Ablock5で、従来のMQ-9は対地攻撃用にJDAM精密誘導爆弾やヘルファイア対戦車ミサイルを主翼に搭載、対地目標対処などに用いられていましたが、MQ-9にはソノブイなど対潜器材を胴体下に搭載しました。

 MQ-9Aによる対潜試験は、MK-39 EMATT自律航行式水中対潜標的を目標として実施しました。BT-AN/SSQ-36ソノブイをDICASS-AN/SSQ-62Fソノブイポッドに搭載、地上管制装置からは衛星通信を介したSATCOMリンクシステムにより管制しました。投下されたソノブイはDIFAR-AN/SSQ-53G水中目標追尾記録システムにより情報集約、追尾している。

 パタクセントリバー基地より実施された対潜戦闘試験は、3時間に渡り水中目標を追尾し続けたとのことで、今後の無人機による対潜哨戒能力整備に活かされるとのこと。多数の無人機による対潜哨戒は高精度センサーによるスノーケル航行中の潜水艦監視等が模索されたものの、広大な洋上の潜水艦発見は難しい。しかしソノブイ運用は新しい一歩でしょう。

 対潜戦闘への無人機の流れは無人ヘリコプターの分野でも研究が本格化しています。MQ-8無人ヘリコプターは取得費用が20億円程度とSH-60K哨戒ヘリコプターの四分の一程度であり、勿論対潜戦闘能力では吊下ソナーを持たず性能で遥かに及びませんが、アメリカとイギリスでは補完的に運用する模索を始めました。MQ-8は海上自衛隊も導入予定がある。

 アメリカのノースロップグラマン社とイギリスのウルトラ社はMQ-8を想定した無人航空機によるASW対潜戦闘作戦体系への実証実験を実施したとのこと。この試験は2020年10月29日に実施され、MQ-8無人ヘリコプターを想定、ソノブイ及び情報伝送装置を搭載のベル407ヘリコプターを用いマルチスタティックソノブイオペレーションを行いました。

 MQ-8ファイアスカウト無人ヘリコプターはシュワイザー333を原型として無人ヘリコプター化された航空機であり、MQ-8AとMQ-8Bはヘルファイアミサイル等のミサイルや各種センサーを搭載し、無人哨戒ヘリコプターとして運用されていますが、MQ-8Cからは原型機の機体をベル407ヘリコプターとして搭載能力や輸送能力を大幅に強化しています。

 ベル407ヘリコプターを云わばMQ-8Cの代役に見立てた評価試験では、ソノブイの投下とソノブイが収集した音響情報の空中伝送等が試験されました。MQ-8の最大の利点は12時間以上という非常に長い滞空時間で、ノースロップグラマン社とウルトラ社では有人ヘリコプターを無人ヘリコプターが支援するハイブリッドASWチームの構築を目指します。

 無人機には大きな可能性がありますが、市販のドローンは数万円であるのに対し、高度一万メートル前後を数十時間滞空する無人機は、センサーを含めれば百億円単位の哨戒機よりは安価ではありますが、それでも決して安価ではありません。この為に機体自衛装置の開発も大車輪で進められています。戦闘機や駆逐艦からのミサイル攻撃から回避するもの。

 アメリカのジェネラルアトミクス社は同社が製造するMQ-9無人偵察機について新しく開発されたSPP機体自衛装置の飛行試験を成功させたとのこと。これはUSSOCOMアメリカ合衆国特殊作戦軍と国防総省共同開発契約に基づく研究開発で、RF無線周波数感知やIR赤外線脅威探知によりミサイルや電子妨害から機体を自衛する外装ポッドを搭載します。

 MQ-9は24時間以上に上る長時間の対空能力を有すると共に、センサーを除く機体の導入費用はボーイング737旅客機と比較し五分の一程度という低い費用で運用されています。しかし、無人偵察機や無人攻撃機として運用するにはセンサーが必要であり、このセンサーを含めたミッションパッケージの費用は相応に費用が大きく、機体自衛は課題でした。

 機体自衛装置を収めたポッドにはAN/ALR-69A(V)RWRレーダー警報装置、AN/AAQ-45 DAIRCM赤外線警報装置、BAE社製ALE-47チャフフレアディスペンサーシステム、テルマAN/ALQ-213電子戦管理システム等を搭載し、脅威を感知した際には自動的に対抗手段を行使します。この一連の評価試験は2020年10月28日にユマ試験場で実施されました。

 無人航空機、1980年代に無人観測機から始まりました技術は多用途航空機へ発展し、2000年代初頭には技術的研究から漸く実用面へ一歩出た段階でした。しかし、この20年間での進歩は目覚ましく、特に対潜戦闘という時間と人員を要する任務は年々潜水艦の高性能化と競争が激化しています。ここに新しい無人機を導入する試みは、海洋国家日本として注目すべきでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)

コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【日曜特集】航空自衛隊60周... | トップ | 【防衛情報】F-2後継機と米F-... »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
MQ-9の時代? (ドナルド)
2021-04-12 23:56:18
どうもMQ-9が熱いですね。いろいろと開発・応用が進んでいます。MQ-8は最大離陸重量4.7t、改良型のスカイガーディアン(MQ-8B)は5.7tの機体で、12tのRQ-4や14.6tのMQ-4C「トライトン」と比べて 1/2.5 の機体規模です。

しかし、多用途性が高く、有人機と同じ空域で飛ぶこともでき、使い勝手が良さそうです。なによりMQ4はもはやP-8Aレベルの価格なので、非常に使い勝手が悪い。

日本も全面的にMQ-8B系列に移行した方が良いかと思います(海上保安庁が先行していますね)
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

先端軍事テクノロジー」カテゴリの最新記事