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【防衛情報】インドネシアF-15IDストライクイーグル導入計画とアメリカT-1練習機退役騒動

2023-02-27 20:18:43 | インポート
週報:世界の防衛,最新12論点
 今週は空軍関連の12の話題を集めてみました。

 インドネシア空軍は二転三転したF-15IDストライクイーグル導入計画を最終決定段階へ進めました。インドネシアのストライクイーグル導入計画は、撤回してフランスのラファール戦闘機を導入するとしラファールの費用がおり合わないと交渉再開し、また撤回してロシアからSu-35戦闘機を構想するなど何度も撤回され再開された過去がありました。

 アメリカ国務省は2022年2月に輸出を認可していますが、計画に至るかは未知数でした。ストライクイーグルの導入は最大36機を計画しており、このための費用として139億ドル規模の契約が見込まれ、これには87基のGE-129エンジン乃至F-100-229エンジンと45基のAPG-82レーダー、40基のAAQ-33スナイパーポッドなど関連装備費用を含みます。

 ストライクイーグル導入は撤回されたとばかりおもわれていました、その背景には2022年2月にインドネシア政府自身がラファールの次期戦闘機決定を発表、アメリカ国務省の対外有償軍事供与認可は単に時機を外した決定とも受け止められたのですが、今回の決定はアメリカのオースチン国防長官インドネシア訪問時に両国閣僚会議での議題となりました。
T-1練習機退役論争
 日本ではT-400として採用されている航空機です。

 アメリカ空軍はT-1ジェット練習機を退役させシミュレータへ置き換える計画を推進中です。この計画は2023年1月から開始されるもので、30年間にわたり運用を継続してきましたT-1ジェット練習機は後継機を導入せず退役、初等練習機での実際に飛行しての訓練終了後は75日間のシミュレータによる教育へ移行することとなるのですが懸念が生じる。

 T-1ジェット練習機はビジネスジェットを空軍が練習機として運用しているものです。しかし空軍には実際に飛行させずシミュレータだけで軍用機の要員を養成できるかという懸念も同時にあるようです。これは戦闘機操縦要員ではなく民間エアラインとおなじ方式で輸送機や空中給油機の要員を養成するのですが、この方式での成果のほどはまだ未知数です。
チリ-C130輸送機改良
 自衛隊のC-130はどうなるのか。

 チリ空軍は旧式化していたC-130輸送機を新型回転翼へ換装しました。チリ空軍のC-130輸送機はC-130BやC-130EとKC-130RにC-130Hという多種多様な機体が採用されていました。このため、空軍はコリンズエアロスペース社と契約し近代的なNP2000回転翼への換装を決定します。NP2000回転翼は八枚翅方式で日本でもE-2Cに装着されている。

 NP2000は八枚翅とこれを制御するEPCS電子プロペラ制御システムから構成されていて、八枚翅による揚力の20%増大することで離陸距離を最大300m短縮させるとともに、コックピット内の騒音を最大20%低減させるとのことで、またEPCS電子制御の採用によりエンジン負荷を最適数値に抑えることから整備時間を50%も削減できるとされています。
チュニジア-新練習機
 経済崩壊のチュニジアに新型練習機です。

 チュニジア空軍はアメリカ製T-6Cテキサン練習機を受領しました。テキサンT-6Cはビーチクラフト社製高等練習機で、チュニジア空軍は戦闘機要員養成へアメリカから8機のT-8Cを導入するとともに、アメリカ国務省からの有償軍事供与計画では一年間の整備支援と初期の運用支援及び予備のエンジンを含む整備関連予備部品などが包括契約されました。

 T-6C練習機はチュニジアではスファックス空軍基地へ配備され、練習飛行隊である第13飛行隊へ集中配備する方針です。テキサン練習機の名は航空自衛隊でも初期に導入されたT-34練習機の愛称で、T-6CはテキサンⅡという愛称でもあり、アメリカ空軍や海軍を筆頭に世界へ広く輸出され、このほど1001号機が製造された取得も運用も手頃な練習機です。
給油機にSAF燃料
 SAF代替燃料は民間航空会社での飛び続ける為の環境配慮の施策となっていますが軍用機も例外ではないのでしょう。

 イギリス空軍は完全SAF燃料によるA-330MRTT空中給油輸送機による飛行試験を成功させました。SAF燃料とは再生可能エネルギーの一種であり化石燃料以外の燃料を示すもの、気候変動対策の強化により近年航空機へは環境安全保障の観点から厳しい視線が向けられています、このためSAFへの置き換えが模索されていますが航空機の安全も課題だ。

 A-330MRT空中給油機はエアBP社が供給したSAF燃料により飛行、この飛行にはエアバス社とエンジンを製造するロールスロイス社が参画しています、試験はブライスノートン上空で11月18日に実施、SAFは粘度特性に差違があり、これまでは一部エンジンをSAF燃料とする試験が行われていますが今回は100%SAF燃料により飛行が実施されました。
180機で地球を守る
 戦闘機僅か180機で世界を守るというならばこの機数は航空自衛隊でもできる事となるのですが可能なのでしょうか。

 アメリカ空軍は180機のF-15EXで全世界をカバーする"ダイベストトゥインベスト"計画を開始しました。これは老朽化したF-15C戦闘機やF-16戦闘機を早期退役させ、F-35戦闘機やF-15EX戦闘機などの導入を促進させる、次世代投資の為の旧型売却、という構想です。この一環として沖縄の嘉手納基地からもF-15C戦闘機撤退がすでに行われています。

 しかし問題はこれらの戦闘機を置き換えるのが180機のF-15EX戦闘機しかない、という点です。アメリカ空軍は沖縄県や日本本土、イギリス本土と韓国及びドイツなどに戦闘機の常駐部隊を展開させてきました、そして中東や南欧にもローテーション展開していますが、果たしてこれを180機で代替できるのかは、議会などで懸念されているところです。
F35のQRIPポッド
 F-35に搭載して周辺ではなくF-35そのもののデータを収集する試みが進められているという。

 アメリカ空軍はQRIPデータ収集ポッドによるF-35戦闘機運用改善技術を開発中です。QRIPとは即応着脱情報記録パッケージといい、大きさはフットボール規模、そして興味深いことに外部装着を行う場合にステルス性能に影響するF-35戦闘機ですが、QRIPは兵器庫の内側にある余剰空間に装着でき、武装やステルス性能への制約などは、ありません。

 QRIPデータ収集ポッドは現在、ネリス空軍基地の第59評価試験飛行隊において試験中ですが、F-35戦闘機を含む現用航空機はソフトウェアのバグが任務遂行に際し問題となる一方、水上戦闘艦のように現場でデバッグが出来ません、このためデバッグには専用の機体に大型の機材を搭載していましたがQRIPは小型故にすべてのF-35機内に搭載可能です。
TALIOS照準ポッド
 ラファールの進化は続きます。

 フランス空軍はラファールF4戦闘機へTALIOS多機能照準ポッドの追加搭載を進めます。フランスはドイツとの間で第六世代戦闘機の国際共同開発を進めていますが、戦闘機の形状さえ決定しておらず、フランスには第五世代戦闘機の導入計画もありません、このために製造が継続され第4.5世代戦闘機であるラファールの能力向上に熱心です。

 TALIOSは複合光学情報装置で超長距離の赤外線情報などを収集する機能があります、しかし現在この改良型として赤外線画像を高解像度処理することでカラー画像化するシステムがあり、これを3D地図とあわせることでより精度の高い目標情報を得て共有する技術があります。今後この新型ポッドをフランス空軍は36機のラファールへ搭載します。
A400M輸送機退役開始
 日本のC-1FTBはまだまだ飛ぶ。

 フランスのエアバス社は11月、A-400M輸送機MSN4の退役を発表しました。MSN4は通称グリズリー4の愛称で知られる実験用航空機であり、2010年12月20日に初飛行を迎えました。グリズリー4は飛行時間が2000時間、飛行回数は1000回を越えるとされていますが、軍用機の飛行時間として2000時間は少々短い印象を受けないでもありません。

 グリズリー4は各国へのA-400M輸送機の売り込みはもちろん、その輸送機としての拡張性を示すべく空中給油試験や新型コックピット試験、航空輸送から空中投下にSAF燃料試験まで様々な用途に用いられました。日本ではC-2初号機はもちろん、50年以上C-1初号機であるC-1FTBさえ飛行しているために不思議に思いますがA-400M退役の始まりです。
タイ-AT6軽攻撃機取得
 案外安いのだなあという印象です。

 タイ空軍はAT-6軽攻撃機8機の受領を開始しました。アメリカのビーチクラフト社製AT-6はT-6テキサン練習機の軽攻撃型で愛称はウルヴァリンとなっています、高出力エンジンを搭載するT-6練習機は中等練習機及び部分的な高等練習機としての運用が可能となっています。なお、タイ空軍は同時期にT-6練習機12機の導入も開始しています。

 AT-6ウルヴァリン軽攻撃機はCOIN機、対反乱鎮圧機として運用されていますが興味深いのはその取得費用です。T-6練習機は12機で1億6200万ドルとなっていますが、AT-6軽攻撃機は8機が1億4200万ドルの契約とのことで、ある程度のセンサーや火器完成装置を搭載したものの、これはそれほど取得費用が増大しないことを示す興味深い数字です。
ボラメに巡航ミサイル
 韓国の近年の防衛産業は政治が軍事を理解すると共に安易に朝令暮改しないという事の大切さを突き付けているようです。

 韓国国防省は2028年までにALCM空中発射巡航ミサイルを開発する計画を発表しました。これは韓国空軍が開発するKF-21ボラメ戦闘機への搭載を念頭としていて、欧州で開発されたトーラスミサイルと同程度の射程、500km程度の射程を付与する計画とのこと。北朝鮮に配備される核ミサイルへの強力な抑止力となる複合的な装備体系のひとつとなる。

 KF-21ボラメ戦闘機は各国が第五世代戦闘機の開発を進める中で敢えて4.9世代戦闘機という技術開発リスクの低い堅実なステルス戦闘機を目指しており、ステルス機では珍しく兵装庫を有していません、この為兵装搭載時にはステルス性が失われますが、その分搭載兵装に制限が無い事を示しており、これを逆手に強力な打撃力を付与させる事となります。

 ALCM空中発射巡航ミサイルについて、DAPA国防調達計画局は開発費用として1900億ウォン、ドル換算で1億4500万ドルを投じる計画です。韓国では独自の艦対地巡航ミサイルなどは既に開発していますが、空中発射巡航ミサイルについては未知数の技術でもあり、KAI韓国航空工業社やハンファ航空社などが協力し、オールコリアで開発に当るとのこと。
オーストラリア海外派遣
 F-35戦闘機がマレーシアへ展開です。

 オーストラリア空軍はF-35戦闘機の一部をマレーシアへ前方展開させることとなりました。オーストラリア空軍はかつて1967年から1983年まで、マレーシアのバタワース空軍基地へミラージュⅢ戦闘機を長期展開させていました。今回F-35戦闘機が展開したのもおなじバタワース空軍基地となっていて、ここはペナンから9kmの位置にある空軍基地です。

 F-35の展開はエランガルー2022演習の一環であり、恒久展開ではないものですが、南シナ海の緊張を前にオーストラリア軍とマレーシア軍は第五世代戦闘機であるF-35戦闘機の運用基盤をバタワース基地において確認するという重要な意味合いがありました。なお、今回訓練で展開したのは第75飛行隊のF-35と支援に当たるC-27輸送機とのことでした。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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