ドイツ語のクラスに来られている方に I 医師が居られ、彼からクラスのメンバーが彼の書いたエッセイのコピーをもらった。「小児科医60年」という題のエッセイである。
その中で面白い話題が取り上げれていたのでご紹介をしよう。
それは表題に書いたライン河の急流の名所ローレライの妖精伝説についてである。この伝説はハイネのローレライの詩(その訳詩)と歌で日本でも知られている。
「美人の歌声に惹かれた舟が次々と岩に当たって沈み、その死んだ舟人の生気を吸って己の若さを保持したといわれる」「因みに、ローレライの妖精はどうなったか。気付いた舟人は耳に蝋をつめて歌をきかないようにし、妖精を見ずに航行した。つまり相手にしなかったのである。妖精は誰も誘惑にのらないので、狂ってライン川に身を投げた」
と I 医師は書かかれている。これが「ローレライの妖精の末路」である。
私はこれを読んで、それはあまりに夢がないように思われた。だとすればどういう末路がいいのかわからないが、結局のところ現代人はそのような伝説を信じなくなって、伝説が自然に消えていったというのは現実的にはありそうなことである。
それで思い出したのだが、ユーゴーの「レ・ミゼラブル(Les miserables)」で主人公ジャン・バルジャンを終生つけ狙っていたジャベル警視は最後に自分の過ちに気がついて、自分の体にロープをぐるぐる巻きにしてセーヌに身を投げて投身自殺をする。
この結末を知らなかったのだが、いつか羽仁五郎の著書で読んで知った。その後「レ・ミゼラブル」の映画でこの場面を見た。これは古い封建体制の終末を暗示しているようでもあるが、こういう結末しかないのであろうか。