先回punを書いたが、岩波書店のPR誌「図書」2月号に作家の片岡義男さんが書いていることを紹介しよう。
これは「西伊豆でペンを拾った」というのを英語でどういうかと新宿のあるバーで片岡さんが作家の田中小実昌から謎かけされたという。そのバーのママが「アイ・アム・ア・ガール」と呟いてくれたヒントをもらって、片岡さんは「ニシ・イズ・ア・ペン」と正しく答えられたという。
これはニシは西を意味し、イズは英語のisと日本語の「伊豆」とがかかっている。また、すぐに気がつかれるようにニシは音が英語のthisの発音に似通っている。だからこれはThis is a penのもじりにもなっている。秀逸なpunである。
もっとも片岡のこのエッセイでは彼の日本語が彼の英語の力によって制約を受けており、拾うという日本語を使えないと述べたところにむしろ彼のエッセイの主眼があるのだろう。
In Nishizu I (have) pciked up a pen. などという訳を期待されてないところが面白い。もし片岡がこんなこんな答えをしたら、手を打って喜ぶでつもりであったろう、田中小実昌のあてがはずれて、がっかりした様子が見えるような気がする。
折角一つの話を紹介したからもう一つだけ思い出したpunを紹介しておこう。これは数学に関することで、ある行列の数値計算(1次連立方程式の数値解法?)はとてもうまく考えられた玄人好みするものであったが、その計算法を考えた人の名前がCroutであったという話をどこかで読んだ覚えがある。
これは数学者吉田洋一さんのエッセイだったか、それとも培風館の新数学シリーズに「行列と行列式」を書いた数学者の古屋茂さんのエッセイだったかそれとも他の数学者のエッセイだったかがもうはっきりしない。
数学者も物理学者も普段は真面目な顔して難しいことを考えたり、議論したりする、近寄りがたい人種だと世間では思われている。だが、ときどきはこのような駄じゃれを飛ばして喜んでいる人を知るとやはり血の通った人間だと思うのである。