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田舎おじさん 札幌を見る!観る!視る!

私の札幌生活も17年目を迎えました。これまでのスタイルを維持しつつ原点回帰も試み、さらなるバージョンアップを目ざします。

映画 77 人間の絛件

2012-09-04 22:32:56 | 映画観賞・感想

 総上映時間が9時間31分! 映画館滞在時間が10時間半! これはもう映画を楽しむというより、私は修行をしているのか、と錯覚してしまいそうな10時間余だった…。

                 

 現在、札幌プラザ2・5では「北の映像ミュージアム」主催で北海道がロケ地となっている映画を上映する「シネマの風景 フェスティバル」が開催されている。
 そのフェスティバルの目玉(?)として「人間の絛件」の第1部から第6部まで一挙上映されるというニュースを聞き、「これは面白そう!」と思い、昨日4日(火)午前10時30分に上映館に足を運んだのだ。

 映画「人間の條件」は1・2部が1959(昭和34)年1月、3・4部が同じく1959年11月、5・6部が1961(昭和36)年に公開されたものである。
 私は映画そのものについて大して知識があったわけではなく、その上映時間の長さに興味を抱いて足を運んだ、というのが偽らざる動機であった。

          
          ※ 召集令状(赤紙)が届き、嘆き悲しむ妻の美千子と梶のシーンです。

 さて、その映画だが主人公の梶(仲代達矢)を通して戦争における人間性を描いた作品とされる。舞台は旧満州帝国、そこで繰り広げられる戦争という人間性を無視したような状況の中で、ヒューマニズムの精神に満ちた主人公・梶が葛藤するという内容である。
 9時間31分もの長い映画を語るには、それ相応に長々と語る必要があるのかもしれないが、それは私にとってあまりにも重い。映画の主題に対する私の感想めいたことを記すことに止めたいと思う。

 映画も主人公の梶同様にヒューマニズムに溢れた作品といって良いと思う。
 このようなヒューマニズム溢れる作品を批判的に語ることは多くの方々を敵に廻してしまいそうであるが、率直な感想を語ってみたい。
 作品を通して一貫して流れていたテーマは、何度も触れているように戦争における人間性を無視した状況の中で、主人公の梶がヒューマニストとして正義を貫こうとする姿が描かれている。一方、梶には妻の美千子(新珠三千代)との愛を貫きたいとの思いも全編通じて描かれている。

          
          ロシア軍との戦闘でかろうじて生き残った梶と小野寺一等兵(千秋実)です。

 梶はその両者の間で揺れ動き、葛藤しながらも、結局は前者を選択し自滅の道を歩むのである。はたしてその生き方が正しい生き方なのか?私には少々疑問が残る。
 1・2部で梶は兵役免除を条件に満州にある鉄鉱山に労務管理者として赴任するが、そこで会社や軍部の意向に真っ向から反し、使役に使われている現地人の工人たちの側に立った労務管理を行い会社や軍部の怒りを買い、陸軍送りとなってしまう。そのことを妻の美千子は激しく悲しむ。
 3・4部では陸軍において、陸軍の不条理なしきたりと闘うのだが、そのことがまた上部の不興を買い前線送りとなってしまう。
 5・6部ではロシア軍との戦いに敗れたものの生き残った梶は妻美千子と再会するために多くの民間人を伴いながら行軍を開始する。しかし、美千子との再会も近いと思ったさなかロシア軍の捕虜となってしまう。その捕虜の日本人間の争いの中でまたもや梶は理不尽な旧軍人との争いを起こし、ついには収容所を一人脱出したものの雪の曠野で倒れ、愛する美千子との再会を果たせないまま命を落としてしまうのである。

 梶の生き方はヒューマニストとしての正義を貫き出会った人たちを助け、友愛を深め、あるいは周りから敬愛もされたかもしれない。しかし、最愛の妻を助け、妻との愛を全うすることができなかったと言わざるを得ない。
 鉱山会社で彼の正義を貫くとしても、もっと別な方法・手段はなかったのだろうか。そうすることで軍隊送りもならず、妻美千子への愛も注げたのではないか。
 戦争を後方支援する会社に従事する。兵役免除のために満州への赴任を承諾する。そのこと自体が梶にとっては矛盾ではなかったのか。そのことを脇に置いておいてヒューマニズムを声高に主張するところに無理を感ずるのだが…。
 もっとも、それでは映画自体が成立しないということも現実にはあるのだが…。

          
          ※ 捕虜収容所を脱出し、雪の曠野を彷徨うシーンです。

          
 現在の社会においても、役所に勤めると、あるいは会社に勤めると、時には社会の常識に反したような組織の論理が跋扈することがある。
 そうした組織の論理とそこに感ずる矛盾との中でどう生きていくのか、ということは誰にも求められている課題ではあるのだが…。

 思いを十分に表現できたとは思わない。重たいテーマではあった。
 それにしても9時間31分は長かった。特に最初の1・2部では「最後までもつだろうか?」との思いがよぎったが、なんとか20時58分まで持ちこたえることができた。
 会場の観客の中には全て見通す人と、何日かに分けて観賞する人に分かれたようだ。
 私と同じように全編通して観た人は20人もいただろうか?

 最後に「シネマの風景 フェスティバル」に「人間の條件」がなぜ入っているかというと、満州やロシアの曠野の光景に北海道サロベツ原野が使用されたことから、北海道に関係ある映画として取り上げられたそうである。