映画というものは脚本があり、監督がいて、俳優が演じて成り立つことを改めて認識させられた。特に映画においては監督の存在がその映画の出来を大きく左右するということをこの映画は感じさせてくれた。
今年の「シネマの風景 フェスティバル」で、私は「人間の條件」とともに「雪に願うこと」、「点と線」の3本を観賞した。
「雪に願うこと」は全編にわたって帯広のばんえい競馬をロケ舞台にして描かれている映画である。
ストーリーは主人公・学(伊勢谷友介)が東京で事業に失敗して、帯広のばんえい競馬で調教師として厩舎を運営する兄の威夫(佐藤浩一)のところに転がり込む。そこで学は厩務員見習いをしながらお払い箱寸前の輓馬ウンリュウの世話をする。学はウンリュウに自分を重ねながらもウンリュウの再生を願い懸命に世話をする。
復活しようと懸命なウンリュウの姿に触発されてか、それとも厩舎で働く素朴の人たちに触れてか、はたまた北海道の雄大な自然に癒されてか、学はもう一度東京で真剣に生きていこう気持ちを新たにして帯広を後にする…、というストーリーである。
※ 主人公・学役を演じた伊勢谷友介です。
ストーリーそのものは取り立てて特筆すべき内容とは思われないのだが、言葉を話さぬウンリュウの健気な様子が、厩舎で働く人たちの素朴さが、北海道の雄大な自然が、それぞれ無理なくごく自然な形でストーリーの中に挿入され展開している。
これは脚本の力であり、監督の力量がそうさせたのではと思った。
題材をばんえい競馬としたのは、ばんえい競馬自体はマイナーな存在で北海道以外ではよく知られていないものだが、巨体の輓馬が重たいソリを懸命に曳く姿に人の人生を重ね合わせてみたいという制作者(監督やプロデューサー)の想いがあったのではないか。
映画のシーンの中に何度か映し出された、北海道の極寒の早朝の中で馬たちが重いソリを曳くトレーニングの場面が印象的だった。馬たちの体からもうもうと立ち上がる湯気が陽の光に映える場面がとても美しかった。
そして威夫役を演じた佐藤浩一の存在感のある演技も印象に残った映画だった。
※ 兄の威夫役を演じた佐藤浩一です。
ただ一つの疑問は題名である。
なぜ「雪に願うこと」なのか、今一つ分からない。
映画の中で厩務員の一人がウンリュウの勝利を願い、雪玉を馬小屋の屋根に載せて祈る場面があるが、そのことを指しているのだろうか?それにしても主題との関わりが私には今一つ分からなかった…。制作する側にとっては深い意味があるのだろうが…。
そのことは置いておいたとしても、映画を観終わった私の中には「いい映画を観たなあ…」、「いい時間を過ごしたなあ…」という思いが残った。
作品は2006年5月公開の映画である。