飾らない人柄の竹田津氏が会場を笑いに誘いながら映画「キタキツネ物語」の制作の裏側を語ってくれました。それをお聴きすると若干興醒めのところもありましたが、反面興味深く伺うこともできました。
北海道エコネットワークを主宰する小川巌氏と竹田津氏は長年の気のおけない友人のようです。これまで何度も竹田津氏の講演を拝聴している私ですが、今回はそうした関係もあってか、竹田津氏はことのほかリラックスされてお話されていたように伺えた。
竹田津氏はまず制作35周年を期してリメイクして昨年公開されたリニューアル版をあまり高く評価されていないようでした。というのも、リメイク技術の進歩によって画面はオリジナル版より鮮明にきれい仕上がったということですが、そのことによって撮影時のピントの甘さが露呈してしまっているということなのです。確かにオリジナル版では冒頭においてキタキツネのフラップが遠くの流氷の上から陸地に向かってくる印象的なシーンはピントの甘さを感じましたが、それすらも効果的に感じたのですが、リニューアル版ではそのようには受け取れないようです。
さて撮影時の裏話ですが…。
出演したキツネたちは全て竹田津氏が一年以上にわたり飼い慣らしたキツネだということで、画面の中の60%以上はそのキツネたちが登場しているということです。
そしてフラップが流氷上を渡ってくる背後に太陽が昇ってくるという印象的なシーンですが、撮影場所は雄武沖のオホーツク海だったそうです。(そこでないと流氷上に太陽が上がらない)そして、キツネが真っ直ぐに陸の方へ向かうように、キツネの歩く両側にトランジスタラジオを配置して真っ直ぐに歩いてくるように工夫したということです。(キツネの習性を利用した?)
そして、映画の中で傷付いたり、死んだりしたキツネのことですが、やはりそこには仕掛けがありました。トラばさみに囚われた場面は、キタキツネは睡眠薬で眠らせている間に苦痛を感じないように作成したトラばさみを付け、血のりは本物と見紛うものを用意して撮影に臨んだとのことでした。爆死するシーンや銃殺されるシーンも同様で、竹田津氏としてはキツネを傷付けることは断固拒否したということです。
竹田津氏は映画を創るということは、「無い世界から、有る世界を創る」ことだと述べた。その意味するところは、アイデアを集大成することにより、いかにも実際にあったかのような世界を描き出せたということだろうか。そして「キタキツネ物語」ではその達成感を味わうことができたと述べられた。
それだけ高いレベルで完成したからこそ、800万人もの人たちに観賞され、テレビ放映時にはなんと44.7%という非常に高い視聴率を獲得できたのだろうと思われます。
私もそこまで創られていた映画だと知って少々興醒めする気持ちもありましたが、一方で観る者をドキュメンタリーと信じ込ませるだけ創意工夫を重ねた映画だと知って映画制作人の苦労に思いを馳せる気持ちにもなりました。
竹田津氏は今回の講演において何かのメッセージを伝えようというよりは、竹田津ファンへのリップサービスといった感じで、肩の凝らない楽しい講演会でした。