田舎おじさん 札幌を見る!観る!視る!

私の札幌生活も17年目を迎えました。これまでのスタイルを維持しつつ原点回帰も試み、さらなるバージョンアップを目ざします。

岩礁潮間帯の生き物たち

2015-09-03 23:11:24 | 大学公開講座
 岩礁潮間帯とは、いわゆる海辺の磯のことを指すようだ。そこに棲む生き物たちが、あの東日本大震災によってどのような影響を受けたか、という講義だった。岩礁にしがみつくようにして生きる生き物たちだが、意外に逞しいようだ…。 

            
            ※ 典型的な岩礁潮間帯の光景です。

 北大公開講座「北海道の野生生物:自然史と環境変化への応答」の第3講が9月2日(火)夜にあった。
 この回のテーマは「磯の生き物たちと東日本大震災」と題して環境科学研究院の町田隆史准教授が講師を務めた。

 専門用語であるが、磯には「潮上帯」、「潮間帯」、「潮下帯」と分類される地帯があるという。文字から類推できると思われるが、「潮間帯」というところは、海の潮の干満によって陸地となったり、海中に没したりする地帯である。
対して「潮上帯」は潮の干満に関わりなく常に陸地となっている地帯、「潮下帯」は常に海中に没している地帯ということだ。
 町田氏はその「潮間帯」に棲む生き物たちが研究対象ということだ。
 
 「潮間帯」には、岩礁に根を下ろす「固着生物」と、岩礁の上を移動する「移動性動物」があるという。(具体的な生物の種名は、一般的には関心は薄いと思われるので省略する)
 そうした岩礁に棲む生き物たちの中でも、水分をどれだけ必要とするかで種によって「潮間帯」の中で情報から帯状に分布するそうだ。つまり乾燥ストレスにどれだけ耐えられるかで分布が分かれるそうだ。具体例として、町田氏が研究フィールドとしている岩手県の磯では、〔フクロノリ〕、〔イワフジツボ〕、〔ムラサキインコガイ〕、〔ピリヒバ〕の順に分布している写真を提示してくれた。

            
            ※ 町田氏が提示してくれた写真と違いウェブ上から拝借した写真ですが、
             なんとなく帯状に色分けされているのがお分かりかと思います。

 さて、それら磯の生物が東日本大震災に遭遇してどのような影響を受けたのか、震災前から岩手県の海岸で研究を行っていた町田氏たちは、その影響について調査したという。
 東日本大震災では海岸においては、〔地震動〕、〔地盤沈下〕、〔津波〕などの変化があったが、それらが磯の生物に与えた影響は?
 〔地震動〕の影響については、自然岩礁が地震によって崩壊することは稀で、地震動によって岩礁から生物が離脱する例は極めて少なかったそうだ。
 〔地盤沈下〕についても、短期的に影響は少なかったということだ。それは日常的に潮の干満に遭っているからということだが、長期的には種による乾燥ストレスの違いから、分布に影響が出てきて、磯の様相に変化が出てきたということだ。
 〔津波〕については、町田氏によると、津波より台風によって引き起こされる激浪のほうが被害が大きいということだ。津波は規模のわりにはダメージは小さかったという。

 こうした調査結果から、人間にとっては激甚とも言える被害を蒙ったことは東日本大震災だったが、磯に棲む生物にとっては意外にその被害は少なかったということが言えそうだ。

                        ※ 講義を担当した町田隆史准教授です。    

 この事実は私たちに重要なメッセージを含んでいると町田氏は指摘した。それは、地震に限らず、自然災害あるいは人為災害が生態系に及ぼす影響について、我々は往々にして擬人化してその影響を予想しがちだが、それは「素人判断」で実際の影響とはかけ離れたものとなる危険性が高いという。
 この言葉を聞いて私は、人類の活動によって引き起こされる野生生物の生態系への影響に関する論議についても、科学的根拠に基づいた論議が必要であるという科学者からの発信だと受け止めた。