著者は感染症の専門家として世界を巡った。そのリアリティが本書の各所に現れている。
感染症は人類の敵として、たとえば天然痘のように感染者ゼロにまで持ち込めた感染症があるとは言うものの、敵は単に撲滅すればいいというものでもない。人類はウィルスも含む全てのの生物とともに環境の中のシステムに組み込まれているので、たとえば、天然痘ウィルスに対する人類の戦いの歴史は遺伝子の中に組み込まれていることを考えるとわかるだろう。
遺伝子は天然痘以外の全く異なる異物=ウィルスに対する免疫反応を生み出す効果を持つ可能性を持つかもしれないが、同時に、あらたな自己免疫疾患を生み出す可能性もある。そうしたことを考えると、昨今の新型コロナウィルスのもたらす様々なこともまた、そう簡単ではないだろうと想像できる。
まさしく、著者の言う「環境史の中の感染症」という視点は重要だろう。人口増加とともに起こる環境破壊と自然への接近や家畜の増加による人獣共通感染症のリスクの高まり、高齢化に関連する問題、総合的に考えなければならないと言えるだろう。