すぷりんぐぶろぐ

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ゆるやかに再生する

2008年12月21日 | 雑記帳
 秋田でもようやく上映されることになった『ぐるりのこと。』
 いそいそと出かけたが、初日というのにガラガラの観客席はないでしょ。
 このあたりが、地方都市でのレベルでしょうか…そんなぼやきはともかく。
 世相としての90年代を法廷シーンで描くこと以外は特に劇的な展開があるわけではないが、ゆるやかながらも心に沁みる作品だった。

 この映画の一つの視点は「見る」ということだと感じた。
 リリー・フランキー扮するカナオ(これがまたリリーそのもののように思えて)の仕事が法廷画家という設定なので、そう思わせるということだろうが、とにかく人物や対象物を「見る」場面が私にとっては印象的だ。
 これは、あまり饒舌でないカナオが見ることによって理解していく、深く感じようとしていることとつながる。そういう人間が、この世の中に少なからずいるし、私もある知人を思い浮かべることができた。
 例えば、仕事仲間にさりげなくその人が欲しがっていたものをプレゼントする場面など…到底自分にはできないなあ、そんな心の襞がないんだなあ、ハッと思わされる。

 橋口監督の作品は初めて観たが、その世界観はどんなものか確かめたくなった。
 私にとってはリリーの存在感ばかりが目立った映画ではあるが、さすがの木村多江と思う場面もあった。
 それは鬱から立ち直るきっかけとなる諍いの後に泣くシーンで、かつてテレビドラマ『白い巨塔』でガンに罹った悲しみを鼻水垂らしながら熱演した彼女そのものだった。アカデミー賞優秀主演女優賞に選ばれたそうな、めでたいことだ。

 エンドロールが終わって明るくなった観客席には、私と二組のペア。
 一組は二十代前半だろうか、もう一組は五十代以上。
 きっとこの映画を一番観てほしい年代を、外している人々ですね。
 それもまた地方の現状ではあるか…といっても、地方の再生よりも家族の再生、夫婦の再生が肝心と一人納得してみる。