『花森安治伝』(津野梅太郎 新潮文庫)
雑誌には興味があり、偏っているとはいえ多く読んでいる方だ。戦後日本で100万部を超えた雑誌『暮らしの手帖』の存在はもちろん知っている。しかし世代的にさすがに手は出なかった。ただ、一度だけ別冊を買ったことがある。この件は後述するとして、その創刊編集長が花森安治。伝説に彩られている編集者だ。
もっとも何故これかといえば、NHK朝ドラ「トト姉ちゃん」がきっかけである。社長大橋鎭子がモデルになっていて、現在時点で花森の役は登場していないが大きな存在になるのではないかと予想している。いわゆる名物編集者と称される方々の個性の強さは独特であるが、この花森の人間臭さはまた格別だった。
「ぜいたくは敵だ!」という歴史的なコピーは花森がつくったとされている。それがこの評伝を成立させる典型的な事柄だと言ってよい。つまり民衆統制を支えた強いスローガンの意味する多重性…日々の生活を切り詰め辛抱することと工夫して生活を良くすること、戦時下においても存在した格差社会の現実である。
「ぜいたくは敵だ!」は、贅沢廃止運動のなかで上級富裕階層に働きかけられたものだったが、現実には庶民への強い相互監視の目をつくる役割を果たした。しかしその言葉の底にあるものは花森が関わってきた「くらしの工夫」ということに間違いなく、「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」によく象徴されていると思う。
『暮らしの手帖』の発刊の辞を引用する。
これは あなたの手帖です
いろいろなことが ここには書きつけてある
この中の どれか 一つ二つは
すぐ今日 あなたの暮しに役立ち
せめて どれか もう一つ二つは
すぐには役に立たないように見えても
やがて こころの底ふかく沈んで
いつか あなたの暮し方を変えてしまう
そんなふうな
これは あなたの暮しの手帖です
これが1948年に発せられたことは今思うと暗示的だ。その後この国が歩んできた、止まることを知らない消費社会に対する警告にも思える。モノに対するこだわりは、その誌面の「商品テスト」として結実する。この功績は現在数多のモノ雑誌に受け継がれているが、癒着なしという一点が守られているかが鍵だ。
花森からすれば自分たちは孫世代。モノや消費に対する見方、それ以上に現実の暮らし方に相違がある。それを踏まえてなお、花森が主張する「工夫」という点について深い共感を覚える。それはモノにとどまらずコト、生き方に関わるからだ。もう十数年前に私が初めて手にした号は、特集名が「叱ること」だった。
雑誌には興味があり、偏っているとはいえ多く読んでいる方だ。戦後日本で100万部を超えた雑誌『暮らしの手帖』の存在はもちろん知っている。しかし世代的にさすがに手は出なかった。ただ、一度だけ別冊を買ったことがある。この件は後述するとして、その創刊編集長が花森安治。伝説に彩られている編集者だ。
もっとも何故これかといえば、NHK朝ドラ「トト姉ちゃん」がきっかけである。社長大橋鎭子がモデルになっていて、現在時点で花森の役は登場していないが大きな存在になるのではないかと予想している。いわゆる名物編集者と称される方々の個性の強さは独特であるが、この花森の人間臭さはまた格別だった。
「ぜいたくは敵だ!」という歴史的なコピーは花森がつくったとされている。それがこの評伝を成立させる典型的な事柄だと言ってよい。つまり民衆統制を支えた強いスローガンの意味する多重性…日々の生活を切り詰め辛抱することと工夫して生活を良くすること、戦時下においても存在した格差社会の現実である。
「ぜいたくは敵だ!」は、贅沢廃止運動のなかで上級富裕階層に働きかけられたものだったが、現実には庶民への強い相互監視の目をつくる役割を果たした。しかしその言葉の底にあるものは花森が関わってきた「くらしの工夫」ということに間違いなく、「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」によく象徴されていると思う。
『暮らしの手帖』の発刊の辞を引用する。
これは あなたの手帖です
いろいろなことが ここには書きつけてある
この中の どれか 一つ二つは
すぐ今日 あなたの暮しに役立ち
せめて どれか もう一つ二つは
すぐには役に立たないように見えても
やがて こころの底ふかく沈んで
いつか あなたの暮し方を変えてしまう
そんなふうな
これは あなたの暮しの手帖です
これが1948年に発せられたことは今思うと暗示的だ。その後この国が歩んできた、止まることを知らない消費社会に対する警告にも思える。モノに対するこだわりは、その誌面の「商品テスト」として結実する。この功績は現在数多のモノ雑誌に受け継がれているが、癒着なしという一点が守られているかが鍵だ。
花森からすれば自分たちは孫世代。モノや消費に対する見方、それ以上に現実の暮らし方に相違がある。それを踏まえてなお、花森が主張する「工夫」という点について深い共感を覚える。それはモノにとどまらずコト、生き方に関わるからだ。もう十数年前に私が初めて手にした号は、特集名が「叱ること」だった。