すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

自分の食が見えること

2016年08月20日 | 読書
 『ごはんのことばかり100話とちょっと』(よしもとばなな 朝日新聞社)

 よしもとばななの小説は読んだときがあったようななかったような…。沖縄の話が、とふと思い出したので、それもエッセイだったかな。この一冊はテーマとともに表紙の写真がよかった。「たべびと」ブログに食べ物の写真を載せているが、気ままに撮っていても難しく感ずるときがあり、ちょっと印象づけられた。



 「さっと書きたくてさっと書いたものばかり」というこのエッセイ集。家庭の食卓を中心に、食に関する思い出や好きな店、宿のことなどが自由きままに書かれてある。しかし、さすが流行作家(でもないか)、見つめる目のユニークさ、凛とした価値観が表れている。何より「食いしんぼう」であることに共感を覚えた。


 食の場の雰囲気を大事にすることを強調しているように思う。高級料理やオーガニック料理の礼賛とは違う。ジャンクフード的な食も登場するし、間に合わせの弁当も忌憚なく語る。ゆえに次の言葉が沁みた。「大らかさって、相互作用だな、と納得する。今の日本に必要なものは、案外そんな感じなのかもしれない」



 「大事なのは、それぞれが、地球とか環境とかではなく、自分自身を大事にしているかどうかではないかな」…表面的な利己主義ではない。そんなふうな食生活をしているかどうか自分に問えば、その意味がわかる。つまりそれは食の中味だけでなく、食の時間や空間、人間(じんかんと読もう)も含めてのことだ。


 食への関心が強いってことは、要するにおいしいものを食べたいだけだ。グルメと称する者は不幸だという言説がある。何を食べてもおいしいと感じる人の方が幸せだというのだ。そうだろうか。肝心なのは、自分の食が見えることではないかな。その材料で、その人が作る料理を、その場所で食べたいというような。