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『怒り』読みました

2016年08月18日 | 読書
 『怒り(上)(下)』(吉田修一  中公文庫)

 映画化されたことを知ったので、封切前には読みたいと思い文庫本を買っておいた。上巻を開き始めたら止まらなくなり続けて下巻へ、あっという間に読了した。かの名作『悪人』を彷彿させる群像的な手法がいい。『悪人』が本当の悪人は誰か、悪人とはどういう存在かを問うたように、今回は「怒り」を取り上げた。



 直接的には、殺人犯行の場に残された「怒」という血文字の意味を探る流れでもあるが、群像劇スタイルの個々の設定に「怒り」が内在すると考えてよさそうだ。怒りという感情が、表面化されない世の中になってきている。しかし、突発的に見える事件なども、背景を探れば結局誰かの怒りになるのかもしれない。


 作者インタビューによると、この小説は千葉県市川で起こった市橋達也の事件がきっかけとなっているらしい。それを知ると、作者の向けたターゲットは溢れかえる情報の波に翻弄されている現代社会であることがわかる。その中で疑心暗鬼になり、自信喪失し、依存性が強くなっていく私達の姿が描き出されている。


 話の中で何カ所か「強い拒絶」を示すシーンがある。結末においても、拒絶という形で終焉している二つの物語がある。人が強く拒絶する根源は怒りに近いかなとふと思った。多様な選択があってもどうしようもなく自らの動きを固定する…縛られざるを得ないものが人にはある。それらをどう処するかが人生なのか。