すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

重鎮の整理棚から引き出す

2017年10月06日 | 読書
 2008年頃だったろうか。『思考の整理学』が東大生・京大生によく読まれるというデータが出てベストセラーを続けたのは…。今も売れているそうである。自慢ではないが(いや自慢か)私は前世紀のうちに読んでいました。その割に思考が整理されないのは、どういうわけか。「老い」かと考え、次の新書を手に取る。

2017読了97
 『老いの整理学』(外山滋比古  扶桑社新書)




 一読してすぐ中高年をターゲットに「整理学」と題しベストセラーにあやかる商法(外山先生ではなく、編集者がネ)だなと思った。しかしそこは重鎮中の重鎮、きちんと読ませ所を心得ていて、繰り言はあるが気軽に読むことができた。ただ、積極論、自重論を織り交ぜており「整理」はしづらいかなあとも感じた。


 いや一つ別の視点から見ると、この新書は一種の整理棚のようになっているかもしれないとも考えた。引き出しが豊富にあり、ラベリングされている箇所を引き出すと、中味がきちんと整理されて収まっているような印象。「感情」の棚のラベルには、例えば「ドンマイ」「怒り・ケンカ」「泣く」「威張る」などがある。


 特に心に残る言葉を二つピックアップする。一つは「ゆっくり急げ」。これは「撞着語法」と呼ばれる有名な「負けるが勝ち」「公然の秘密」などの類だが、少し分かりづらい。著者が語るには、急ぐばかりではいけない、休み続けるのはもっとよくない、「リズムをもって生きよ」と言い換えられるそうである。納得がいく。


 もう一つは、上を向いてばかり歩いてきた、つまり少し浮かれていた私達への警句でもある。何事も上向きで成り立つものではない。足元を見る大切さは古人からの教えだ。著者のこの一文には得心した。「下を向いて歩いて前へ進むことのできるのが、人間のいいところである」少しでも、前へ動いていればいいのだ。