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必要なときに必要なことを

2021年10月07日 | 雑記帳
 久しぶりに読んだ『図書』10月号(岩波書店)の冒頭エッセイが良かった。作家原田宗典の「親父の枕元」と題された文章だ。亡くなった父親のベッド周りの整理をしていて見つけた写真や手紙、葉書のことなどが記されている。そのなかに、筆者の娘つまり孫からの絵葉書が一通あり、その出だしの文章に惹かれた。


「いつもお手紙をありがとう。おじいちゃんの手紙は必要な時に必要なことが書いてあるのでとてもためになります。」



 何気ない一言ながら「必要な時に必要なこと」という句は読み過ごせなかった。筆者もその点について触れていて、自分が大学入学で上京するときに新幹線のホームで「餞別だ」と言って渡された一通の手紙と「包装された小箱」に触れている。万年筆かと思いすぐに車中で包みを開けた筆者はその中味に赤面する。


 なんとコンドームが入っており、手紙には「一人前の男」が「一人暮らし」をするにあたり「恋愛すべし」とあり「しかし女のひとを泣かせてはいけない」と続きその餞別の理由が綴られていた。粋でお茶目なエピソードは昭和期の濃さを匂わせつつ、それ以上に人同士の関わるタイミングの核心を見る思いがする。


 「必要な時に必要なこと」…今、我々が最も考えなければいけないように思えてきた。不透明な時代という認識に振り回されて、備えや先取りばかりに目を奪われ、今何が肝心で、目の前の事象への丁寧な対処が等閑になる…そんな傾向になっていないか。子育てや教育だけではなく、日々の生き方そのものか。