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読書行為を一つの砦に

2021年10月21日 | 読書
 夏休みの研修で出会った高校の先生に、中学生に向けて「おすすめ本」を一つ紹介してくれませんかとお願いした。そこで挙がってきたこの新書、本館にはなかったので購読した。プリマ―新書は結構好きだが、この「桐光学園」シリーズは知らなかった。50年前に読みたかったと思った。もちろんあるわけがない。


『何のために「学ぶ」のか  中学生からの大学講義1』
 (桐光学園+ちくまプリマ―新書編集部・編)


 著者のラインナップは、外山滋比古、前田英樹、今福龍太、茂木健一郎、本川達雄、小林康夫、鷲田清一。7名中5人の文章は何らかの形で目にしている。もちろんこの国を代表する研究者、学者であることは間違いない。こうした方々が中高生向けに本質的なことをやさしく述べているわけだから、魅力がある。



 共通項を意識して読む。一つ目は「エラー」「失敗」の重視だ。その体験を通じて得たもの、学ぶことを繰り返し、様々なことが身につくと、表現は違えど語っている。学校教育はそもそも「予防」という観点が大きい。それはやむを得ないことでもあるが、そこで考えるべきは「自由度」の保障ではないかと考えた。


 二つ目は、自己存在をけして大きく見ていないという点だ。自然に、歴史に、他者に「圧倒される」ような体験の必要を説く。あるいは、生物学の本川が書くように「生物はずっと続いていく」という形で「私が残る」意味を教える文章もある。様々な視点から変貌する社会の中での自己をどう処するかヒントがある。


 最後は当然「読書のすすめ」。それぞれの章にお薦めする2,3冊の紹介がある。それはこの新書のテーマ「学ぶ」に直結するが、どの著者も現代社会に強い危機意識があることが見てとれる。あまりにオートメーション化された環境に染まることの警告でもある。読書行為は、戦うための一つの砦のように見える。