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桜と絵本と豆乳と

誰しも、あの屋根の下に

2021年12月13日 | 読書
 2016年から18年まで3年続けて、それまで叶わなかった海外旅行を楽しむことができた。この状況となっては非常にラッキーだった。それなりの感想をこのブログにも残した。世界が拡がったなんて大袈裟なことは言わないが、今でも旅先の地名や景色が出てくると、反応してしまう。何気なく借りた一冊もそうだった。


『クリスマスを探偵と』
(伊坂幸太郎・文 マヌエーレ・フィオール絵 河出書房新社)




 『文藝別冊』に収録された短編小説を、クリスマスの話だしプレゼントにもなるようにと絵をつけて単行本化した本だ。著名なイラストレーターらしい。南ドイツの雰囲気が出ている(ような気がする)。城壁に囲まれたローテンブルグという小都市が舞台となっていて、クリスマスの一夜の出来事が描かれている。


 恋人たちのロマンティックな場面や家族の楽しく穏やかな思い出などは登場しない。育った家庭に巻き起こる諍いや、プレゼントをめぐって起きた決定的ともいえる揉め事を、主人公カールはベンチで隣り合わせた男に語り、その男が一連の出来事を独自解釈しながら、会話が重ねられていく。軽妙な伊坂ワールドだ。

 
 「こじつけ」を「可能性のゲーム」と置き換えながら進む話の内容は、クリスマスやサンタクロースに関する歴史的な蘊蓄を盛り込ませ、探偵のカールが追っている一つの案件、それに伴う自らの生き方と結び付けられていく。真実かどうかは伏せられた終末だが、一つの「聖夜の奇跡」というとらえ方もできよう。



 さて、ローテンブルグ。確かにあの城壁は印象深かったし街並みは独特だった。ただ観光地にはなっているが、一つ一つの家々には確かに住人がいて暮らしが営まれている。人は誰であっても、振り向いてみれば少しは秘密めく裏のありそうな物語があるだろう。そう考えると可能性を信じる心、楽しむ心が豊かさになる。