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ステキな詩を求める心

2022年01月04日 | 読書
 著者の名前には馴染みがある。詩のアンソロジーの編者として多く目にしてきた。現場教員から編集者になったという経歴を初めて知った。そういう道も微かに視野にあった時代もあるので親近感が持てた。副題は「54人の詩人をたずねて」。著名な詩人を中心に、交流のあった方々を幅広くかつ深くとらえている。


『ステキな詩に会いたくて』(水内喜久雄  小学館)

 冒頭に多くのページが割かれている、谷川俊太郎、まど・みちおといういわば巨人と著者が接した文章は貴重に思えた。特に現役教員の頃、まどさんにお願いし初めて訪問した日に、まどさんが「お家の前で直立不動みたいに立ち、待っておられた」というエピソードは、添えられた写真のその姿とともに心を打つ。


 上記お二人の他に個人的に印象深いのは、自分が国語実践に励んでいた頃によく取り上げた工藤直子、原田直友、川崎洋だ。特に原田直友の「はじめて小鳥が飛んだとき」は、詩をどう教えるかの核心に近づいた記憶と共にある。工藤直子の一連の詩は「読解→討論→表現」というオリジナル実践のきっかけとなった。



 「朗読」という形でパフォーマンスする詩人が少なくないことに驚いた。2010年発刊なのでその頃に「詩のボクシング」が注目されていたこともあったか。ただ改めて確認できるのは、多くの場合詩は口から発してこそ届くということではないか。文字から音声へ、どのように表現するか、また考えさせられる。


 「ステキな詩」(なぜカタカナなのか不明だが)とは、ごく一般的な表現だ。しかし、この本に登場する詩人たちの主に児童向けの詩は、どの世代にも訴えかける願いが読み取れる。現代詩を分からぬ者の言い訳に過ぎないと言われそうだが、やはりステキな詩とは心にストレートに響く「意味が見える」言葉がいい。

 谷川俊太郎「今年」の一部を紹介して、締めよう。

涙があるだろう
今年も
涙ながらの歌があるだろう
固めたこぶしがあるだろう
大笑いがあるだろう今年も
あくびをするだろう
今年も