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あと何目か石を置けば

2022年01月26日 | 読書
 一昨年夏、逝去された著者の本は結構な数を読んでいる。『思考の整理学』に限らず、論旨が明快で言葉遣いも易しい(もっともその類だけ選んでいるのだが)。この2冊は5,6年前の発刊だが、書き下ろした部分を入れながら、以前の文章を再構成しているようだった。同じエピソードが著されている部分もある。

『本物のおとな論』(外山滋比古  海竜社)

『大人の思想』(外山滋比古  新講社)


 上著は、「・・が大人である」という章の見出しが端的に主張を表わしている。よく言われている内容のものも多いが、少し惹きつけられる章を拾うと「『私』を消すのが大人である」「裁くのではなく、他人を応援するのが大人である」「矛盾しているのが大人である」…求められているのは何か、考えさせられる。


 「Ⅳ 大人の育成」に「エスカレーターではなく、階段が大人をつくる」という見出しがある。これは日本社会の特性を表わしているとも言える。ただ現状の社会は一旦ラインに乗れば、というほど甘くない気がするが、いずれ「階段」意識が薄れ、特に教育の場では導く側の引き上げ力の弱体化が気になっている。



 下著は少し断片的内容が多い。「人生とは自分という雑誌を編集しつづけること」という喩えになるほどと思った。「人生の集積」は毎日の「生活という雑誌」の面白さにかかってくる。それは「本文」と「埋め草」によって構成され、兼ね合いはエディターによる。仕事、暮らし、趣味のバランスを考えさせられた。


 最終章は「フィナーレの思想」…これは読んだ記憶がある。96歳まで書き続けた著者だからこそ、「”余生”などというものがあってはならない」と一節が今また力を持つ。囲碁に喩え「あと何目か石を置けば」生き返る石もあるという。それは断片につながりをつけること、先日書いた「回収」に似ていると思った。