幸田露伴の『五重塔』を読んだあと、
いろいろなことが呼び覚まされます。
ここは、楽しい連想から。
長谷川町子著「サザエさんうちあけ話」を
本棚からとりだす。その最初の方に大工さんが登場します。
「母は教育ママかといいますと、
ちょっとばかり毛色が変わっていて、
家の改造で大工さんと植木屋さんがはいった時のこと、
お茶のみ話から、二人ともまだ、
京都を見たことがないと知ると、
『費用は、わたしが出す。連れていってあげましょう』と、
たちまち相談がまとまりました。
国宝級の建物、名庭園を見ずして、
なんでひとかどの腕になれようか、
というのがその理由です。
娘どもの、白い視線をしりめに、
引率していきました。
『八つ橋』をおみやげに帰ってきた、二人が言うには、
『京都は、何といってもご婦人が一番よかった』そうです。
わが子、他人の区別なく、才能を引き出すことに、
快感を覚えるタチなのですね。」
それから、老朽家屋の修繕にきてくれる大工さんに、
まじってお茶どきに、犬のジローが車座の輪にはいった
話もありました。
箱根の別荘の火事には、
「近くのトビさんや、大工さんが
いせいよくかけつけてハコネに
ついていってくれました。」
その次には、こんな箇所も、
「ふだん母はわが子より、
職人さんをかわいがるのです。
トビの親方など
『どーも、ここんとこ、体の調子がわるくて・・・』
母『このおクスリお飲みなさい。あたしもよーく効いたから』
三女『アレは更年期しょうがいのクスリなのよ』
長女『あきれた!』
町子『バカなものすすめて』
ところが、親方は、ニコニコ顔で、
『よく効きますネ。すっかり全快しました!』
三姉妹が見つめる箇所には
『外見上、特に女性化したようすも見えず、
三人ともホッとしました。』
そういえば、うちあけ話にも『家』にまつわる
箇所はいろいろと出てきておりまた。
印象深いのは、ここらでしょうか。
『今回ばかりは劇画でいきましょう!迫力がでません』
とある⑧回目でした。
福岡に疎開していた頃のこと
焼夷弾が落ちても、男性が
『火はたたき消してあげましたよ』という
そのつぎでした。
『せっかく助かった、この辺一帯のウチは、
まびき疎開といって延焼をふせぐため、
引き倒されることになりました』
『あしたから『まびき』です。
お隣りでは、くやしまぎれに座敷をメッタ打ちしました。』
とあり、おやじさんが
床柱や障子を、斧をふりまわして、ドスッ・ガツッと‥。
他人の手で家を壊されるくらいなら、いっそ自分の手で、
そんな思いをこめて、柱も傷だらけで、障子もバラバラ。
その次のページは
『よく日が終戦です。・・・』とあり、
床の間の前で、涙ぐむおじさんが描かれておりました。
はい。大工さんと、サザエさん。
もうカバーもなく、背から表紙にかけて茶色くなった
姉妹社の『サザエさん うちあけ話』を
ひさしぶりに取り出してきたのでした。
ちなみに、この本。文庫にもなっております。
はい。BS では朝ドラの再放送『まー姉ちゃん』が
現在放映中らしいのですが、涙するおじさんの場面は
ドラマに描かれたのかどうか。
うん。それにしても、読み直し、あらたてめて、
印象に残るは、三姉妹の母親の姿でした。
『わが子、他人の区別なく、才能を引き出すことに、
快感を覚えるタチなのですね。』
『ふだん母はわが子より、職人さんをかわいがるのです』
という場面。