和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

まず何よりも。

2022-03-19 | 柳田国男を読む
桑原武夫の本を本棚からとりだし、2つの文を読む。

①「『遠野物語』から」
②「柳田さんと私」

①は、1937年7月「文学界」に掲載されたものでした。
そこで、桑原さんは、指摘しております。

「『遠野物語』はまず何よりも、一個の優れた文学書である。
しかるに一人の芥川竜之介をのぞき、わが国の文学者にして、
この物語の美を認めたもののないのは私の不思議とするところであった。」

はい。今だったら、気にせずに通り過ぎる言葉かもしれないのですが、
これが書かれたのは昭和12年。当時はどなたも取り上げる方がいない
そんな時代なのでした。ましてや、どなたも文学とは思わなかった。

桑原武夫著「文章作法」に、こんな箇所があります。

「 あとになったらふつうに見えることが、
  書かれたそのときにはドキッとさす。
  これがいい文章、いい評論というものの特色です。・・・」(p64)

この①で、桑原武夫は、柳田国男の文を引用しながら、
折口博士を登場させております。その箇所も引用。

「折口博士は、東北には神道のはいることがおそく、
 ために中部地方などでは当然神社の行なうべきことを
 おのおのの家が行なった。

 『オシラサマ』『獅子踊』などみなそれであるといわれたが、
 じじつ遠野には神社ははなはだ少ない。仏寺もまた寥々たること、
 『東北にては人口2千にして1寺あり、近畿にては2百にて1寺なり』
 (山崎直方)というとおりである。

 神仏両道とも十分に原始的なものを押えきってはいなかったのであろう。
 経学は元文の末(吉宗将軍のころ)に初めてこの地に伝わったといわれるが
 
 物語の世界には儒教的要素など全く見当らない。
 歴史家は時代を区別して、鎌倉の仏教とか、江戸の儒教とかいうが、
 それは中央のことであって、僻地では明治のつい向うまで
 太古が来ていたのではないかと思われたりする。
 
 そして文書のみにたよったものだけが歴史なのではない。
  ・・・・・
 これらの作品を読んで、その豊かな感銘のうちに、
 柳田さんの方法を感得しえないのは情けないことだと思う」

うん。まだ続くのですが、ここまでにして②へ。
②は、桑原武夫著「日本文化の活性化」(岩波書店・1988年)
に掲載されております。この本のあとがきは河野健二氏。桑原さんは、
この年(昭和63年)4月10日に亡くなったことが記されておりました。

さて②の内容なのですが、直接の対面したことが語られております。

「先生のところへはときどき伺っていたのですが、
 民俗学の話を習いにいったというのではありません。
 優れた日本人がそこにいるという感じ、
 先生のことをいろいろ観察もしておったわけです。」(p8)

「先生は人を試験したり、冷やかしたり、かなり意地の悪い
 ところがありましたが、これは考えようによっては一種の
 愛情の表現だったのかもわからないのです。
 私などはしょっちゅう無学を冷やかされました。・・・」

こうして、きちょうな柳田国男の姿を語っております。
それはそれとして、最後は、この個所を引用。

「柳田さんは83歳になって『故郷七十年』という一種の自叙伝を
 口述筆記でお書きになっております。・・・・・

 私は・・あの本を読んでみたのですが、あの文章は
 曖昧模糊としてちっともわかりません。・・・・
 先生の文章はどうしてああいうふうなのか。

 あいまいという言葉もあたらないのかもしれない。
 『車懸(くるまがか)りの戦法』とでもいうのでしょうか、
 こういうふうに回っていって、最後は

 『きみ、どう思う?』
 『東京都がはだしで歩いてはいけないという
  禁令を出したのはいつか知ってるか?』

 『知りません』

 『明治三十・・たぶん四年。
  そういうこともご存じなしに』
というようなことになる。

読んでいると、私などはもう相当年のいった人間ですから、
そこから自分の幼いときのことがいろいろ思い浮かびます。

友だちのことをツレと言うとか、お茶の子さいさいとか、
女の人が好きな男の人にお酒を差すことを思い差しというとか、
このごろは消えてしまったが越中や信州の山登りで、
物を持つのをボッカと呼ぶとか、

そういう私どもが幼いときに使っていた言葉がつづってあって、
そこから一つの世界が出てくるのですけれども、しかし、
それではどういうことを相手に訴えようとなさっているのか、
それが必ずしも全般的にはわからないところがあるのです。」(p16)

このあとに、桑原さんはつづけます。

「 私はきのうも『木綿以前の事』を読み返して
  いろいろ感動するところがあったのですが・・・ 」


はい。つぎに読む本を、指示された気がしました。
 
コメント (4)
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