定価が1800円+税。その古本が600円でした。
「京都いきあたりばったり」(淡交社・2000年発行)。
うん、見れてよかった(笑)。
じっさいの題名は長くって
「ほんやら洞と歩く 京都いきあたりばったり」。
写真が甲斐扶佐義。文は中村勝。
むろん文もなんだけど、写真がいいんだなあ。
京都の町中の人たちが被写体となっているのですが、
すっかり、写す側と、写される側との境がない感じです。
たとえば、
「たばこ屋には看板娘がいた」に登場する、
藤本しなさん(85)のセリフはというと、
『昔は、たばこと文房具なんかを売って、
子供たちも学校いかして、やってこられたんですがねえ。
今はもう、たばこ喫う人も減ったし、
また今度の値上げどっしゃろ。
先日もおなじみさんに会うて、
近ごろちっとも見えまへんなあ言うたら、私やめました。
若いもんが店番するような商売やないですわ』(p14~15)
「看板娘」には、ほかに、
同じ人を撮った2枚の写真が載っていて、
これがいいんだなあ。ここでは、とりあえず、
2枚の写真につけたコメントを引用。
「いまもしゃきっとして、売り場に座る中井スエさん、93歳。
『もう、娘たちの助けがないと、あきません』というが、
やはり、ここに座っているのが一番落ち着くようだ。
座っているだけで、みんなを元気づけていますよ、きっと。」
「出町界隈を散歩する
『中井タバコ店のおばちゃん』(1976年)
のリンとした風情が甲斐さんの目にとまった。
70歳のころのスエさん。」(p16)
うん。甲斐さんの写真の秘密の種明かし、
でもあるようなコメントがありました。
「70年代の後半、甲斐さんは出町で
大規模な青空写真展を3年間で19回開催した。
鴨川べりの『タネ源』はんの板塀に展示された
写真を見る人たち。最終日に映っている人には
タダであげることにしていた。」
うん。すごいすごい。タダの空気が、まるで、
撮る側と撮られる側の微妙な境界をとりはらって、
街中を包みこみ浮かび上がらせる。そんな写真集。
切り取られた普段着の京都人の、その時のその姿。
私は何を言っているのやら。でもね、浮き浮きと、
何か語りたくなるような、そんな写真集です。
こうした写真との、出会いがうれしい一冊。
ちなみに、本のはじめには、序文として、
鶴見俊輔の「この本に寄せて」と、
井上章一の「街の記憶」とがあります。
はい。このくらいにしておきます(笑)。
この人の何冊か写真集があるようですが、
また、古本で出会えることを期待して、
ここまでにします。
私はこの一冊でじゅうぶん満腹。
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