和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

コンコンチキチン、コンチキチン。

2022-07-01 | 古典
杉本秀太郎著「洛中生息」が手元にあるので、
そのなかの「神遊び 祇園祭について」を改めて読む。

はじまりは藤枝静男著「欣求浄土」を紹介し、
その宮司の声と所作を引用しているのでした。

「 突然、宮司が『オーッ、オーッ』というような
  叫び声をあげて神を呼びはじめた。・・・    」

この声に導かれるように杉本秀太郎は
ご自分の祇園祭を語り始めるのでした。


「・・祇園囃子を子守歌にして育ったようなものだ。
 もっとも、この子守歌は、二階囃子といって
 お囃子の練習がはじまる六月末から七月二十四日までの
 子守歌なのだが、幼少期を通じてほぼ一箇月のあいだ、
 毎日かならず聞いていた・・・・」

「 祭の近づいたことをカミに知らせるのは、
   ・・・・・祇園囃子の練習開始である。 」

こうして祇園祭は、囃子の話からはじまります。
それが導入部です、ここだけでも引用しなきゃ。

「梅雨明けまでに、まだ幾日もある六月のかわたれどきに、
 ・・家には二階囃子が聞こえてくる。

 能楽で用いるのとおなじ太笛が、幽婉とした曲想をかなでて、
 カミをさそう。・・鉦叩きで内がわの縁辺と底とを打叩く・・
 太鼓が、下方から笛と鉦とを支えながら・・
 前へ、前へと衝迫的にこころをそそのかすリズムを刻み、
 カミのこころに、ときめきを起こさせる。

 祇園囃子といえばコンコンチキチン、コンチキチンと、
 人びとは受取ってしまうが、二階囃子の練習期間に、
 祭の音楽の担い手たちがくりかえし練習するのは、
 そういうふうに聞こえるせわしない囃子ではなくて、
 ・・・きわめてゆるやかで荘重な曲である。しかも、
 単に一種類ではなく、そういう曲がいつくも・・・
 七基の鉾三基の曳き山それぞれにまたちがった曲が、
 それくらいずつ伝えられていて・・だから、半月近くも、
 毎晩そういうむつかしい曲を、ことさらに練習するのである。

 七月十七日の山鉾引きまわしの日・・・
 それらの曲は出鉾囃子と称して、鉾が四条通をまっすぐ
 東へすすむ数町のあいだだけ奏される。そして四条通の
 まっすぐ東の突き当りといえば、八坂神社である。

 出鉾囃子は、つまり神楽囃子のようにカミに奉納する音楽であり、
 また舞いをともなっている。舞い手は鉾のうえに乗っている稚児である。

 『コンコンチキチン、コンチキチン』というふうに聞こえる囃子は
 戻り囃子といって・・町かどを折れてしまってから奏される。
 すでに戻りにかかっているのだ。戻り囃子もまた二十曲、三十曲と
 曲目があり・・くりかえし練習される・・こころせわしい曲だ。
 ・・そして、カミとヒトとの別離がもう間近いことを予感している
 悲しみが、戻り囃子には表現されている。」

はい。このあとでした。杉本秀太郎氏は、カミとヒトとを語ります。

「 戻り囃子の時間は、
  ヒトは、カミからヒトへと戻ろうとし、
  カミは、ヒトのもとを去ろうとして後ろ姿を見せている。
  
  ヒトは突然、カミの姿を見失う。
  カミは、来年ふたたびあらわれるためには、
  ここで姿を消さなければならないのだ。・・・   」

はい。杉本秀太郎氏の「祇園祭」の文は、とりあえず半分
なんですが、私はこれで満腹。はい。ここで中〆とします。

どういうわけか思い浮ぶのは、徒然草の第137段でした
( ここは、島内裕子さんの徒然草訳でもって引用 )。

「それはさておき、賀茂祭では、牛車や簾など、どこにも
 葵の葉を懸けているのが何とも優美だ。
 夜がすっかり明けきらぬうちから、目立たぬように、
 行列がよく見える場所を取るために、牛車があちこちから寄せて来る。
 ・・・
 そうこうしているうちに祭が始まり、面白くもあり、
 また華やかなきらめきが素晴らしくもあり、
 さまざまな様子で行列が過ぎてゆく。それを見ていると、
 本当に飽きることなく、あっという間に、祭りの一日が終わってしまう。

 いつの間にか夕暮れになって、通りに面して
 あんなにも立ち込んで並んでいた牛車も、また、
 ほんの少しの隙間もなくぎっしりと並んでいた見物の人々も、
 いったい、いつの間にどこへ行ってしまったのだろうか、
  ・・・・
 この一日の明け方から夕暮れまで、都大路のありさまの
 すべてを見るのこそ、本当に賀茂祭を見たということになるのだ。
 華やかな行列を見るだけが、祭を体感することではない。
  ・・・・・・・・                   」

はい。吉田兼好が観た賀茂祭と、
杉本秀太郎のよく知る祇園祭と、
その両方が同時に肩を並べます。


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