和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

97歳。二人の『今』

2021-03-12 | 詩歌
わたしは、本をほめている書評に出くわすと、
ついつい、その本を買ってしまうタイプです。
まあ、ほめ方にもいろいろあるわけですから、
つい自分の琴線に触れる書評があるわけです。

ここでは、二人の97歳。
前回同様、杉山平一詩集『希望』(編集工房ノア・2011年)。
この詩集には、新聞の記事が3枚はさんでありました。
すっかり忘れていたのですが、今回読み返してみました。

朝日新聞「著者に会いたい」コーナー(2011年・11月27日)
ここで詩集『希望』が紹介されておりました(文・白石明彦)。
たぶん、この紹介文を読んで新刊注文したのでした。

産経新聞の2012年6月18日「追悼杉山平一」(寄稿・倉橋健一)。

読売新聞夕刊2012年7月14日「追悼抄」(大阪文化・生活部 浪川知子)
「詩人 杉山平一さん(5月19日、肺炎で死去、97歳)」

それぞれ、詩だけでは知りえない
側面を照らしてくれておりました。
けれども、記事を引用するよりも、
ここでは、何はさておき詩を引用。


      いま   杉山平一

  もうおそい ということは
  人生にはないのだ

  おくれて
  行列のうしろに立ったのに
  ふと 気がつくと
  うしろにもう行列が続いている

  終わりはいつも はじまりである
  人生にあるのは
  いつも 今である
  今だ


昔、雑誌の特集で「2000年企画 20世紀とは何だったのか」
というのがありました。そこに河盛好蔵氏が書いております。
氏がとりあげた20世紀の一冊は、堀口大学の『月下の一群』。
1頁の文でした。そのはじまりを引用。

「堀口大学さんの訳詩集『月下の一群』に出合ったときの驚きは、
97歳の今も忘れない。大正14年(1925)、第一書房から刊行された
初版本を、私は・・・読んだ。
たとえば、アポリネールのこういう詩である。

  働く事は金持をつくる
  貧乏な詩人よ働こう!
  毛蟲は休(やすみ)なく苦労して
  豊麗な蝶になる

たった四行の詩なのに、機知があって、
新鮮で、感覚がまったく新しい。・・・・・
胸が高鳴るのを抑えきれなかった。」

はい。これがはじまり、
ここは、さいごも引用。

「時代が大きく変わるとき、
当然ながら文学も大きく変わらないではいない。
・・・・・・

文学の底に流れているのは詩である。
これはごく当り前なことなのに、
わが国の近・現代文学は、いつの頃からか
詩と小説が分離してしまい、その傾向は今に続いている。
私は大学さんのあの仕事にかえることが、
今もっとも大切なのではないかと思っている。」

( 「新潮」2000年新年特別号 )


う~ん。97歳。二人の『今』。
二人とも亡くなっているのに、
それなのに、鮮やかな『今』。





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5 コメント

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Unknown (kaminaribiko2、)
2021-03-14 18:07:01
和田浦さんと のりさんから素敵な詩を教えていただきまして、ありがとうございます。
返信する
こだま。 (和田浦海岸)
2021-03-12 12:06:53
こんにちは、のりさん。
パソコンをひらくたび、
のりさんのブログへと
お邪魔させてもらってます。

今回コメントありがとうございます。
『本はしゃべり出し
 本棚はうたい出した』
それが、こだまになって響いてきた
ような気がしました。
こちらこそ、ありがとうございます。
返信する
こんにちは(^^♪ (のり)
2021-03-12 11:46:38
素敵な詩人を知りました。 有難うございます!!
杉山一平さんの詩、「今」「電球」に元気を頂きました~~
「文学の底に流れているのは詩である」・・・との河盛好蔵氏の言葉もいいな・・・と思いました。
返信する
本棚はうたい出した (和田浦海岸)
2021-03-12 11:31:19
こんにちは。
カミナリビコ2さん。
「ほめる」ということで、
杉山平一詩集「希望」に、
こんな詩がありました。

    電球  杉山平一

 スイッチを押すと
 部屋は パッとかがやいた
 私は電球だ

 机は声をあげ
 椅子はほほえみ
 本はしゃべり出し
 本棚はうたい出した

 闇は不安と謎をひき連れて
 窓から逃げ出した
 
 私は電球だ


はい。カミナリビコ2さんの
本の山脈がうたい出すことを
願ってしまいます。
うん。人のことは言えません(笑)。
返信する
Unknown (kaminaribiko2、)
2021-03-12 11:13:40
私も人の書評を読んで買うタイプです。なので、時間が経つと、なぜこの本を買ったのかな?と思うこともよくあります。が、読み始めると思い出してガッテンします。そんな私には読まれるのを待っている本が山じやなく、山脈になって待っています。
返信する

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