これまで5回にわたって東ヨーロッパやロシアで20世紀に起きた悲劇を書いてきました。第一次大戦によって独立国家になったエストニア、リトアニア、ラトビア、ポーランド、などが第二次大戦で消滅したのです。戦後はソ連の衛星国として独裁者スターリンの圧政に苦しみました。
チェコ、スロバキア、ブルガリア、ハンガリー、ウクライナ、ベラルーシなどの現在の独立国家は1989年のベルリンの壁の崩壊以後に資本主義義の民主国家に復活したのです。
これらの東ヨーロッパ地方は、我々日本人には想像も出来ない深刻な悲劇を体験したのです。その悲劇は二重、三重に重なり民族同士が殺戮しあい、そしてユダヤ人が絶滅収容所で600万人も殺された地域なのです。その実例を少しだけ列挙します。
(1)ポーランドはバルト3国同様にドイツに占領され、その後ソ連に占領され国家が消滅します。ポーランドの軍隊はフランス、イギリスと共にドイツ軍と戦い、一方、ソ連に投降した部隊はソ連軍とともに東側からドイツへ攻め入ったのです。
ドイツ占領中のワルシャワでは地下に潜った抵抗軍が大規模な蜂起をしますが、完全に鎮圧されワルシャワは徹底的に破壊されるのです。
(2)ドイツ占領中のポーランドではアウシューヴィッツ収容所と同じ絶滅収容所が9ケ所も作られ、ポーランドのユダヤ170万人、ハンガリー在住の50万人、そしてウクライナ在住の多数のユダヤ人が殺戮されたのです。
(3)ソ連が占領したバルト3国では、指導的な人々を強制収容しシベリア等へ流刑にしました。その後ドイツが占領すると、住民を徴兵しソ連と戦わせたのです。ソ連が再占領すると同じことを強要したのです。この悲劇はアメリカが占領した日本では想像も出来ない悲劇です。(しかし朝鮮人を徴兵し、アメリカと戦わせた日本も同じ事をしたのです。)
(4)ポーランドとバルト3国は第二次大戦後、ソ連の傘下の共産国家として一応独立をします。しかしポーランドの領土は大幅に削られ、西側へ200km以上も移動させられます。エストニアとリトアニアは領土の東地域は大きく削られソ連領になります。その結果、現在のウクライナとベラルーシは西側へ大きく移動するのです。
これらの国々の現在の国境線は、第二次大戦後のソ連の軍事占領に従って、ソ連が一方的に決定した通り固定されています。もしロシアが日本の北方四島を返還すれば東ヨ-ロッパ諸国の国境線を大々的に引き直さねばならないことになります。ロシアが広大な領地を失います。ですからロシアは絶対に北方四島を返しません。
(5)ポーランドも、ハンガリーやルーマニア、そしてバルト3国などはカトリック教国でした。ウクライナやベラルーシはロシアと共にロシア正教の信仰の篤い国でした。それが共産独裁国家になり過酷な宗教弾圧を受け、聖職者は逮捕、処刑されたのです。日本の江戸時代のキリシタン弾圧と同じことです。その遺恨や信仰上の混乱は現在でも続いています。
(6)独裁的共産国であった地域では人々が怠惰になり汚職が蔓延し市民的モラルが崩壊しました。所謂、「人間の劣化現象」が深刻に起きたのです。一度劣化現象が起きると、正常な人間に戻るのに何十年もかかります。現在の東ヨーロッパ諸国はこの共産主義の悪い後遺症で苦しんでいます。経済発展がうまく行かないのもこの後遺症のお陰です。
20世紀は人類がかつて経験したことの無い大規模な殺し合いをした狂気の時代でした。そして共産主義というイデオロギーが多くの民族を塗炭の苦しみへ突き落したのです。しかし長く続いた冷戦も共産陣営の敗北で終了し、世界は平和になりました。21世紀は大規模な戦争の無い平和な明るい希望の時代です。
しかし前世紀に人類が経験した悲劇の内容を理解し、忘れないことが重要と信じています。二度と悲劇を起こさないように常に努力をするべきと信じています。このシリーズ記事を完結するに当たって人類の平和が何時までも続くことを祈ります。(完)