ヨットという船には2種類あります。どんなに強風が吹いても転覆しない大きめのクルーザー型ヨットと、すぐに転覆するディンギーという小型ヨットです。全国の高校や大学のヨット部ではディンギーだけの競技大会へ出場しています。若い学生にはクルーザーヨットの競技がありません。転覆した小型ヨットを自分で起こしレースを続行します。
上の写真は筑波大学のディンギーです。春先の西風に吹かれ今にも転覆しそうです。
数年前の春さきにクルザーで霞ヶ浦へ出て行きました。季節の西風が急に強くなって沖のディンギーが5隻程転覆しています。私はあわててエンジンをかけ、帆を下ろして救助にむかいました。一番早く着いたディンギーの二人の学生に声をかけました。「オーイ!引っ張ってあげるから、ハーバーへ帰らないか?」。すると学生は答えました、「いいです!船を起こしてレースを続行する訓練をしているのです!」。そこで次の転覆しているディンギーへ近づきます。2人の学生が体力を消耗してだいぶ弱っています。「オーイ!マリーナへ帰ったら生ビール2杯飲ましてくれるなら引っ張って、救助してやるぞう!!」、と冗談半分で呼びかけます。実はこの冗談が重要なのです。それで心にゆとりが出来、ヨットを自分で起こす元気が出るのです。「勿論、生ビール2杯位おごりたいです!でもゲルピンです!先輩がおごって下さい!」。こういう返事が返ってくるときは救助してはいけません。
そうこうしているうちに監督がモーターボートでマリーナから出て来ます。学生たちはそれを待っていたのです。通りがかったクルーザーに助けられたら競技会への出場チームから外されるのです。
それ以来、突然の強風で転覆してるディンギーを見ても救助しないことにしました。少し遠方から、体力の消耗の程度を注意深く観察することにしています。近くに監督の乗ったモーターボートが居る時は邪魔をしないで離れるようにしています。
海上で救助を求める船と、救助する船の間には色々なコミュニケーションがあるのです。救助しないで通りすぎた船にも事情があるのです。救助して貰いたい船は、そのような事態になったのは自己責任です。運が悪かったと諦めるべきです。船乗りとは何時でもそのような覚悟が出来ている人です。ご参考になれば嬉しく思います。(終り)