毎年、弥生の春らしい季節になると、伊豆半島の文学会の木内光夫さんから「岩漿」という文芸誌が送られて来る。読みやすい日本語で書かれてた作品がいろいろ掲載してある。春先の風物詩を待つように心待ちにしている。
その第18号が来た。地方の文学会を18年も続けていて、毎年きちんと作品集を出版していることに感心する。内容はいつものように、小説、短編小説、随筆、短歌、詩などである。世の中はインターネットの時代になっても、昔風の同人誌を出している人々がいるのです。
木内光夫さんの筆名は馬場駿といいます。短編小説、「やさしい姫鼠」を丁寧に読んだ。面白いストーリーの展開なので引き込まれ、一気に読んでしまった。
簡単に言えば、ホテルに長年勤めているある初老の男とウェイトレスのココという可愛い娘との恋物語です。恋物語といっての初老の男の片思いである。ココにはハンサムな青年の恋人が居る。その男の子を身ごもってココは自殺してしまうのです。何故自殺したのか?初老の男はいろいろと考えます。それがこの短編小説の主題です。ココの部屋に棲みついていた野生の姫鼠と男が会話をしながらミステーリーが次第に明らかになって行くのです。
三人の登場人物の人生が風景写真を見るように明快に分かります。人間が描き出されていて、ストーリーが面白いという小説の最低条件をを満たしています。(最近はこの最低条件すら満たしていない小説が多すぎて困ります。)
若い女性のココを悲しい境遇にして描くと、その悲しみが女としての美しさを一層冴えさせる。そんな小説のオーソドックスな手法とは知りながら、ついココの魅力に惹かれる自分が、主人公の初老の男と重なってしまい読み込んでしまいます。そんな出来の良い短編小説です。
その他の作品も読みやすい日本語で書かれ心を打つ内容です。やはり活字の作品集はしみじみとしていて、心が動かされます。
伊豆半島の文学会「岩漿」については、
http://www.gan-sho.book-store.jp (E-mail:asei@vesta.ocn.ne.jp)
をご覧下さい。