土用丑の日の頃になるとウナギの蒲焼を食べることが多くなります。今年は梅雨明けから猛暑日の連続です。ウナギのかば焼きの香りが夏風に乗って漂っています。暑い夏はウナギの蒲焼が一段と売れ行きが良いそうです。
そこで、土用のウナギにちなんでライン河の天然ウナギを蒲焼にしたお話をお送り致します。
随分と前の話です。1969年11月にドイツのスツットガルト市に住み着いて、よく農民市場で野菜を買っていました。ある日、生きたウナギを水槽に入れ売っているのです。ライン河で取れた天然ウナギだと言います。売っている人に料理法を聞くと、ブツ切りにしてウナギのスープ(アールズッペ)にするか塩味の燻製にして食べろと教えてくれます。
日本のウナギの2倍くらい太いものを一匹買いカバヤキを作ることにしました。せっかくなので日本人の男性を招待し、カバヤキでドイツビールを楽しむ会をすることにしました。
ところが料理が大変難しいのです。まず頭を取っても胴体が動いて一本のまま裂いて2枚に下ろせないのです。そこで、20cmくらいのブツ切りにして、完全に動かなくなってから2枚に裂きました。しかしウナギの背骨は3角形で切り出せないのです。仕方なく骨付きのまま、2枚下ろしにして蒸して身を固めました。
そうすると竹串が打てるのです。竹串はデパートで売っていました。串を打ったあとは醤油、ミリン、砂糖を混ぜウナギを漬け、耐熱皿に載せてオーブンで蒲焼にするのです。
何度もタレをつけ、ひっくり返しながらオーブンで丁寧に焼き上げます。タレが焦げて台所中にウナギの蒲焼の匂いが充満します。お客が「いい匂いですねー」と台所を覗きに来ます。
いよいよカバヤキ・ビールパーティーの開始です。焦げ目のついた分厚いカバヤキを数枚大皿に盛り付けて運びます。串はついたままにします。
琥珀色のビールをなみなみと注いで、ライン河の天然ウナギのために乾杯!
カバヤキを自分の皿に取り、串を抜いて食べはじめます。ところが不味い!生臭くて、泥臭くて食べられないなおです。でもせっかく苦労したので一串は食べました。死ぬ思いで。
生臭いだけでなく、小骨が縦横無尽に入っていて食べ難いのです。お客は礼儀上、「うん、これはいける!」などと言ってくれます。でも顔があまりにもの不味さ、生臭さで歪んでいます。泣きそうな顔にも見えます。「止めましょう! 今、チーズを色々持って来ますから」
あれ以来茫々40年経ちますが、スーパーでウナギの蒲焼を見るたびにライン河のウナギと格闘したこと、生臭かったことを思い出します。カバヤキの価格の大部分は料理の技術料だな、と深く納得します。上の写真は2008年の6月1日に諏訪湖のウナギの記事で紹介した、うな藤のカバヤキです。カバヤキが上手に出来ています。見て美味しそう。食べて、本当に美味しい。そのように作れるのは日本の伝統文化です。素人は作ろうなどど考えないで下さい。
今年も猛暑が続きます。ウナギの蒲焼を食べて元気に、暑さに負けないで下さい。
今日も皆様のご健康と平和をお祈り致します。藤山杜人