後藤和弘のブログ

写真付きで趣味の話や国際関係や日本の社会時評を毎日書いています。
中央が甲斐駒岳で山麓に私の小屋があります。

短篇小説、yoko著、「初島での出会い」、その二

2011年03月01日 | インポート

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電話の向こうでは緑が元気そうな声を出して「これから新幹線に乗るところよ。」と言っている。
一瞬困った恵子だが、事実を話すより仕方がなかった。
でも思っても見ない緑の反応は、さぞかしがっかりするだろうと案ずる恵子の気持ちを軽くしてくれた。
「私は例年通り都心のクリスマスを楽しむから、恵子は一人で島でひっそりと楽しんでね。」ということだった。
思っても見ない展開になり、意気消沈した恵子だったが、気持ちを切り替え、文字通り一人旅を満喫しようと決心した。

一人きりの寂しいクリスマス・イヴのディナーであったが、「心静かに一人ワインを飲みながらというのもなかなか乙かも。」などと、ほろ酔い気分で自分自身を慰めた。
 食事を終えた恵子は部屋に戻るためエレベーターに乗った。
ガラス張りのエレベーターからはクラブの庭に見事なイルミネーションが輝いているのが見渡せ、思わず一人で歓声を上げてしまった。
これは外に出てみなければと思い、ロビーに引き返した。
午後から夕方にかけて激しく降った雨は嘘のように止み、空には奇麗な星が瞬いていた。
「これは最高のイヴだわ!」と思わず声に出したそのとき、何処からか男性の声がした。
「すみません。あなたの写真を撮らせて頂けませんでしょうか?」
恵子は一瞬相手が何を言っているのか分からず、キョトンとした表情でいた。
「顔は写しませんから、後ろ姿や横顔くらいを入れさせてもらえれば、このクリスマスのイルミネーションも映えると思うんですよ。」
見ず知らずの男性に自分の写真を撮られるのは抵抗があるが、後ろ姿くらいならいいかもと思い、承諾した。
男性は何枚か撮り「有り難うございました。お陰で今年のクリスマスのいい記念が出来ました。」と言った。
「記念なんて大げさですよ。」と恵子はつい本音で言ってしまった。
「いいえ。記念になります。たとえ見知らぬ女性の写真でも慰めになります。クリスマスの記念に誰もいない風景は残したくないですから。」
「実は今日彼女と一緒にここに来る予定だったんです。でも船に乗る直前にけんかをしてしまい、彼女はどうしても乗らないと言い出したんです。僕もついカッとなり勝手にしろと言ってしまいました。そんな状態で乗ったら案の定海が荒れました。僕は気になりすぐに電話をしました。待っているから後から来てほしいと。彼女は決心がつかなかったようです。彼女が迷っているうちに船が欠航になってしまったという訳です。」
「そうでしたか。それはお気の毒。それに比べれば私なんか気楽ですね。私は女友達と一緒に来るはずだったんですが、友達は夕方の便に乗ることになっていたので、来られなくなってしまったんです。」
「お互いに予定外に一人きりのイヴとなってしまった訳ですね。どうですか、ひとりぼっち同士でイヴを祝いませんか?ワインでも何でも僕がごちそうしますよ。」
「私、今一人で少し頂いたところなんです。これ以上頂いたら酔ってしまうかもしれません。」
「酔ったら僕が介抱しますよ。な~んて、こういう言い方は危険な男が言う台詞ですね。酔わない程度に少しくらいならいいでしょう。」
そう言われると恵子はなんだかそんな気になってしまい「私さっきはイタリアンにワインだったので、今度は日本酒を頂きたいです。でももうしばらく外にいたいです。・・・奇麗ですね。この景色をお互いに一人で見るのはやはり何ともわびしいですね。恋人のいない私ならともかく、イヴに恋人とけんか別れとは何とも悲しいですよね。あまりお気の毒なので、今夜は彼女の代わりに私がお酒のお相手をしてさしあげます。」
 
 恵子は決して酔いすぎてはいけないという自制心が働き、日本酒を少し頂きながら、初めて会った男性の恋の身の上話を聴いてあげた。
彼は話すことによって心が少し軽くなったと感謝をしてくれた。
明日の朝8時に一緒に朝食をとる約束をし、それぞれの部屋に戻った。

 部屋に戻り、恵子はベランダから夜景を眺めた。
こんな静かなイヴを過ごすのは何年ぶりだろうと思った。
また来年も一人で過ごしてもいいかもしれないと思いながら、いつまでも伊豆半島の夜景を眺めていた。(続く)

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近代文明を拒否し、中世の生活を守る村の写真をお送りします

2011年03月01日 | 写真

アメリカの東部や中西部には自動車、電気、ガス、水道を拒否して、中世のヨーロッパの農村生活を現在でも続けているアーミッシュという人々が住む村が散在しています。ルターの宗教改革で生まれた純粋原始キリスト教の一派で絶対平和主義の信仰を守っている人々ですい。

その生活ぶりの写真をお送りします。特に3枚目の室内の写真を注意深くご覧下さい。部屋には電燈が無く、薪ストーブが中央にあるだけです。衣類も壁にぶら下がっているだけで、何枚もクローゼットに並べて吊るして仕舞うほど沢山持っていません。下着は箱に仕舞い、農作業と礼服を常に共用する服を毎日着ています。農作業にはトラクターは一切使いませんので、4枚目の写真のように馬車と人力だけで刈り取りを行います。

なお、このような村を1990年に訪問し、一泊した時の旅行記は、外国体験のいろいろ(12)にあります。クリックすると開きます。

写真の出典;http://en.wikipedia.org/wiki/Amish と http://www.google.co.jp/images?hl=ja&q=%EF%BC%A1%EF%BD%8D%EF%BD%89%EF%BD%93%EF%BD%88&lr=&um=1&ie=UTF-8&source=univ&sa=X&ei=x21sTdiDCoXovQPLhoHYBA&ved=0CDQQsAQ

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江戸時代から現在まで41家族が初島の自治を守る

2011年03月01日 | 日記・エッセイ・コラム

熱海から船で30分の初島には江戸時代末期から41家族しか住んでいません。長男が跡を継ぎ、娘だけの家では長女が婿をとり、家の数を一定にする伝統が現在でも生きています。それ以外の子供は島を出ます。近海漁業と畑作だけの島では41家族しか生きて行けないからです。

船が島に着くと火山灰のような保水力の無い土が島を覆っているのに気がつきます。作物が出来にくく、真水に困る土地と分かります。これでは生活が苦しい筈と心が痛みます。

しかし島はあくまでも平和です。明るい雰囲気なのです。立派な家も貧しげな家も混在していません。41家族に貧富の差が無いようです。

今日はこの楽しげな島の「自治」を少しご紹介したいと思います。まず美しい花々の写真をお楽しみ下さい。

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次に下の写真をご覧下さい。全く同じ大きさの漁船がコンクリート製のスロープに引き上げられています。それも島の近海でしか漁の出来ない船外機つきの小舟だけです。漁業組合で相談して全ての家族が同じ大きさの船を購入したようです。その船の並んだスロープの上側には島で唯一の魚協経営の白い建物のスーパーがあります。漁船の大きさが同じという事を下の写真でご覧下さい。

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漁港のすぐ上には離れ島には不釣り合いに見えるほど立派な木造の小中学校が見えます。熱海市立初島小学校です。生徒が現在21人で先生が13人居るそうです。質素な生活をしている41家族がせめて子供たちだけでも立派な校舎で学んで貰いたいと努力して建てたに違いありません。

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この校舎の下をよく見ると同じ幅のお土産店と食堂がズラーと並んで居ます。この通りの先には全く同じ大きさの食堂が20軒近く並んでいて地魚料理を出しています。その一軒に入り新鮮で美味な海鮮丼を食べました。年老いた父が料理をし、愛想の無い中年の息子が運んで来ます。ゴツゴツした漁師の手で海鮮丼をニュッと出してくれます。

さて近海漁業と畑作だけの島に3つほど豪華な施設があります。富士急グループが投資したエキシブというリゾートホテルとアジアン・ガーデンと富士急マリーナという施設です。どれも高額の収入がありそうです。下にこの3つの施設の写真を示します。

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これらの施設は大都会から観光客を大勢呼び込むための「大型観光開発」です。これでは江戸時代から連綿として続いた41家族の平等性は完全に消滅したに違いありません。心配になり帰宅後いろいろ調べて見ました。

そうしましたら事情が分かりました。41家族は平等に持っていた島の土地を絶対に売らないという伝統を守り、富士急グループと土地の賃貸契約を結んだそうです。その上、魚協が出資し、役員を出し、全ての観光施設の運営に意見を言えるようにしてあるそうです。

このようにして初島の41家族は江戸時代からの自治を守っているのです。江戸、明治、大正、昭和、平成と時代は変わっても41家族の平等な幸せを追求して来たのです。あくまでも合法的な手段の範囲で、平和で幸福な島の生活を保ってきたのです。

そして熱海市も海底水道管を敷設したり下水処理場を作ったりして島の生活を一層楽になるようにしました。島を散歩しているとそのような施設が松林の陰に目立たないように建っています。景観を壊さないように島の人々が頼んだに違いありません。

初島へ観光に行ったら美しい景色や豪華なホテルに感心しましたが、それだけでなく島の人々の心の豊かさに一層感動しました。 初島の旅日記でした。

今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。藤山杜人