福島原発で起きた現象を冷静に考えて見ると、その全体像がほぼ想像できます。地震・大津波が起きた後に起きたもろもろの現象を「起きた順序」に従って想像をまじえて整理します。この整理をすると今後起きるであろう危険な現象がある程度想像出来るので心の準備ができます。
(1)大地震によって緊急スクラム装置が作動し、核連鎖反応を停止する事に成功した。
制御棒のボロン・カーバイト棒が燃料棒の間に挿入され、核反応が緊急に停止したのです。この地震によって原子炉の配管や冷却系統は損害を受けず、正常に冷却水が循環していたと想像出来ます。女川原発や茨城県・東海村の東海原発は緊急停止後も正常に冷却を続行していたのです。
(2)数十分後に襲った大津波で冷却システムと緊急発電機が流されたり、海水をかぶって全ての冷却水が止まってしまったのです。女川原発と東海原発は津波対策のお陰で津波襲来後も冷却系統が動いていました。
(3)炉心高温化で残留水と燃料保護管のジルコニュウムが激しく反応して大量の水素ガスが出来て、その圧力で炉心圧力容器を更には原子炉格納容器のあちこちの小さな割れや損傷から沁み出して水素ガスが建屋内に充満したのです。
水素ガスが沁み出したということは放射能物質も水蒸気と一緒に格納容器に充満したという事になります。
(4)建屋内に充満した水素ガスが大爆発したのです。この衝撃の大きさは建屋の鉄筋コンクリートのコンクリートが粉々になって飛び散り、鉄骨だけがグニャグニャになった事から理解できます。この爆発の衝撃で、原子炉格納容器と炉心圧力容器に繋がっている数多くの配管や配線が繋ぎ目で壊れてしまったと想像出来ます。
この状態で、自衛隊と消防庁の献身的な注水で外部から冷却することに成功しました。しかし水素爆発で建屋内に充満していたヨウ素131やセシウム137が大量に空中に放散されたのです。
(5)格納容器に繋がる多くの配管や配線が繋ぎ目で壊れたので、大量の外部注水によって炉心からの放射能物質が原発工場敷地や各種のトンネル内に拡散したのです。今後、原発近辺で強い放射性物質がつぎつぎに発見されるでしょう。
(6)原発近辺で強い放射能が今後発見されても大局的には安心して良い状態です。ただし復旧作業をしている人々の安全を守り、間違っても特攻的な精神が入って来ないように充分注意すべきです。今後のマスコミ発表に一々驚いたり、不安に思う必要はありません。
さてこの記事の題目にあるように何処が壊れたのでしょうか?その理解の為に沸騰水型原子炉の図面をもう一度ご覧下さい。
ここで原子力発電という事を離れて、高温や高圧を使ういろいろな石油精製や合成化学の工場での爆発・火災事故の過去の例を振り返って見ましょう。するとその大部分の原因は配管からの可燃性ガスが漏えいして工場建屋内に充満して爆発・炎上したことが原因になっています。
今回の福島原発の水素爆発も良く似た現象です。上の原子炉の炉心圧力容器と格納容器には図面には描いていない数十、いや数百の配管や配線が貫通しているのです。その付け根の部分が割れるのです。大きな容器に、それとは成分の違う合金製の配管を溶接で付けるのです。難しい技術です。その上、水素爆発の衝撃と応力は数多くの配管付け根に集中します。割れないとしたら奇跡です。
話は飛びますが、敦賀の新型原発の「もんじゅ」は熱交換に使用していた高温の液体ナトリュウムが漏れて、水蒸気爆発をして建屋の外へ放射能が漏れた事故でした。液体ナトリュウムが漏れた場所は温度測定用のステンレス管の付け根だったのです。今後、調査が進めば原子炉のいろいろな所の割れや損傷が見つかります。それをマスコミは大げさに取り上げるでしょうが驚いたり怖がったりする必要はないのです。そのような割れや損傷は初めの頃の水素爆発で、すでに出来ていたものなのです。問題は原発周辺や東北地方の放射能の強さを毎日見守ることです。幸いこれらは最近減る傾向を示しています。もう安心して良い状態へ収束しているようです。
今日は福島原発現場で復旧作業をしている方々の安全を心からお祈りいたします。間違っても特攻精神を発揮しないようにくれぐれもお願い致します。藤山杜人