1945年4月1日の米軍上陸から6月23日の日本軍の玉砕までの沖縄戦は阿鼻叫喚の地獄でした。9万人の軍人が死に、9万人の沖縄にいた民間人が死んだのです。下の写真は「ひめゆり部隊」に徴用される以前の女学校の楽しげな集合写真です。ニコニコ笑っていた女学生のはたして何人が生き残ったのでしょうか?
(写真の出典:http://matome.naver.jp/odai/2127726384218993601 )
ところで沖縄戦について長年疑問に思っていた謎がありました。何度も、葉山でヨットに乗せてもらった元特攻隊の田村さんから聞いた話です。
沖縄戦の真っ最中に士官学校を優秀な成績で卒業したあるエリート将校が単身、戦線を脱出して台湾へ渡ったという話です。沖縄に残した部下は全部戦死したそうです。
田村さんの話によると、彼は沖縄本島から焼き玉エンジンの漁船で石垣島、西表島、波照間島と夜だけ航行し、台湾の基隆(キールン)軍港の南の漁村に着いたそうです。
田村さんがそのエリート将校さんへ何故台湾へ行ったのですかと聞いたところ、それは軍事機密だと言って答えなかったそうです。私はこの話を忘れませんでした。
そうしたら文藝春秋の2012年9月特別号で謎がおおよそ解けたのです。
その中に「太平洋戦争語られざる証言」という特集欄があります。その欄の中に「沖縄戦、今なお答えの出せない疑問」という記事があります。そして台湾の状況は、「・・・・台湾で不発弾処理1752発」という記事に書いてあります。
この2つの記事を読むと以下のようなことが考えられます。
沖縄の防衛には満州から関東軍がまわり、牛島中将の指揮下に入ったのです。そしてもともと関東軍のエリート将校だった彼も沖縄に渡ります。
沖縄戦が始まり砲兵中隊長として奮戦していた彼が参謀に呼び出されます。「ひそかに単身台湾へ渡り、私と親しい台湾の参謀へ頼んで沖縄援軍を編成し、沖縄へ逆上陸せよ」。こんな命令を受けたに違いありません。台湾にはもともと沖縄に居た第9師団が駐留していたのです。
島づたいに必死で台湾に行ってみると台湾の日本軍もアメリカの爆撃で戦争など出来る状態ではありません。
沖縄に上陸すれば台湾の日本軍が逆上陸することは米軍が見通していたのです。ですから台湾を空爆で叩いておいて沖縄へ上陸したのです。その事情は米軍の不発弾が多数残っていたという上に示した記事から明白です。
台湾に渡った彼は援軍を得ることも出来ず、そこで終戦を迎えます。沖縄に残した自分の砲兵中隊の兵士は全員玉砕したのです。
戦後、そのエリート将校は罪悪感にとらわれます。
戦死した部下の資料を集めては靖国神社の「遊就館」へ届けたのです。
戦後、東京で始めた事業も成功しましたが利潤は殆ど「遊就館」の整備のために寄付をしたそうです。
そして彼は田村さんへ、「奉天では幸せな新婚生活をしたが、沖縄戦以後は家族と幸せな生活をするのが何故か死なせた部下に悪いようだ」と言っていたそうです。
これが田村さんから聞いた話です。
戦争で死んでしまうのも大きな悲劇です。しかし生き残った人にも悲しい人生があるのです。あまりにも過酷な体験をすると普通の家族生活が出来なくなるのです。それは家族にとっても悲劇です。不幸です。戦争の被害は家族へも及ぶのです。
本人は死んだ戦友の為にと全てを捧げて冥福を祈るのです。家族を大切に思っていてもそうすることが不器用で出来ないのです。
しかしそれも立派な人生ではないでしょうか?
最近もこのブログでご紹介した、義兄が特攻隊員だった方からのご投稿をご紹介します という記事も同じようなもう一つの実例です。
戦争の被害者は戦没した人だけではありません。残った軍人、そしてその家族の全てが戦争の被害者なのです。その被害者たちも次第に高齢になり次々と旅立って行きます。
世代が交代すれば次第に戦争の悲劇が薄れていきます。この記事の冒頭に示した女学校生徒の集合写真の笑いが悲しみに変わり、そしてみんな、みんな旅立って行きます。
しかし日本民族は永久に戦争の悲惨さを忘れるべきでないと思います。
明日は8月15日、終戦記念日です。いろいろな戦争の悲劇を思い出しましょう。
二度と戦争をしないと固く決心しましょう。
そして祈りましょう。太平洋戦争のいろいろな犠牲者の為に祈りましょう。(終り)
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参考資料:
田村さんは予科練の跡地に特攻隊の記念館「雄翔館」をつくるために靖国神社の資料館「遊就館」を度々訪れたそうです。その時、沖縄戦線を離脱したあるエリート将校さんに会い、体験談を聞いたそうです。そのエリート将校は関東軍の将校でしたが沖縄防衛のため満州から沖縄へ転出していたのです。
田村さんのことは、人間が好きだから旅をする(2)悲しそうな特攻隊員の顔を忘れない 2008年10月24日掲載記事で説明しています。