おやじのつぶやき

おやじの日々の暮らしぶりや世の中の見聞きしたことへの思い

読書「東京の空間人類学」(陣内秀信)ちくま学芸文庫

2013-10-11 22:10:20 | 読書無限
 今回、「震災復興52小公園」に興味を持ったのは、この書のp284「社会センターとしての小公園」という項目でした。 関東大震災後の「帝都復興」という大構想の中で取り上げられ、実現された、とのこと。小学校と隣接し、一体として計画された、この公園は、非常時の一時避難場所、そして、校庭の狭い小学校にとっての運動場の延長。平日は学校の校庭の一部として、休日や夕方からは地域住民の憩いの場としての機能を併せ持つ、という考え方でした。
 その後、昭和20年3月10日、下町一帯を焼き尽くした「東京大空襲」をはじめ、米軍の激しい空襲によって、都内では校舎も周囲の建物も軒並み焼失させられ、多くの住民が逃げ惑いつつ死んでしまうという、もともとの目論見をはるかに越える被害を受けました。そのため、ほとんどの公園が、戦後に再興されていく、その過程で、建設当時の学校・公園の姿は現在ほとんどなくなってしまっています。学校と公園の位置は、何カ所か消滅したところを除けば、ほとんどそのままですが、小学校と公園の関係・関連が地元でも薄れてきています。
 けれども、そうした地域における「社会センター」としての公園の役割を先験的に示したものとして高く評価されるべきではないか。そういう視点で取り上げています。
 実は、関東大震災が発生する以前から、小学校と公園を一体として扱うという考え方は、アメリカ・シカゴに先駆的な実践例があった、と。当時のシカゴでも、学校は市の教育課、公園は公園課という担当部局が異なっていましたが、具体的に取り組み、実現することで縦割り行政による弊害を乗り越えていった、こうしたことがすでに日本にも紹介されていたわけです。
 そのために、関東大震災の復興という大事業の中で、いち早く取り入れられ、実行に移された。しかし、震災後の都市計画、区画整理とともに進められたこの計画は、地元住民から大きな反発もあったようで、結局、計画の半分位にとどまってしまったようです。
 公園のレイアウトは、「自由広場」をメインにするという画期的な発想。公衆便所の設置、藤棚のあるパーゴラ(園亭)、コンパクトにまとめられた児童遊戯場などをつくる・・・。
 こうした発想が「52小公園」の今に残っているかどうか、そうした興味がふつふつとわきました。何十年もそのそばを通っていた公園が、その一つであったことも、はじめて気づかされました。

 現在、学校環境をめぐる様々な問題は、児童の生命の安全、安心という視点でとらえられるようになっています。そうした面では、いっときの「開放」というよりも「閉鎖」せざるをえないという面も重要でしょう。一方で、近所の児童公園では、小学生などの学齢期の子ども姿が少なくなっているようにも思えます。地域にねざした児童生徒の自然環境つくりなど、課題は、ますます多岐になっています。 
 この書は、こうした実態を踏まえ、江戸から東京へ、過去から現在へ、そして未来の(東京)都市空間づくりをどう想定すべきかなど、多岐に亘って読み解く内容になっています。
 こだわりは、「水の都・東京」。実際に堀割に小船を進め、見上げる都市空間。最近ではそうした計画・観光もあるようですが、この方のようには、なかなか・・・。

 執筆当時からもますます大変化を遂げている大都市・東京。特に東日本大震災の大きな被害を受けて、防災都市つくりという大改造が計画され、着々と進められています。まして、7年後のオリンピックを控え、そういう大工事に拍車をかけるに違いない、今後。
 オリンピック施設優先、安全、快適という大改造優先の経済・思想の中に、本来の文化都市としての、都会に生活する多くの市民の心に真に通う「都市づくり」にしていけるかどうか。
 一時期、大きな公園が大工場の敷地跡につくられ、現在も地域住民の憩いの場になっています。そうした開発も、都内では一段落。今は防災に強い街造り、ということで大規模開発が進められています。
 そういう地域では、ごみごみした、低層木造住宅が取り壊され、次々と大型の高層マンションへと変貌、道路も広く立派になっています。が、公園・緑地はまったくといっていいいほど(一カ所も)つくられていません(例えば、墨田区向島・曳舟地域)。安心、安全、防災の名の下で、地元住民はお互いに孤立し、防壁づくりのマンションの一室に追いやられていく、そんな感じすらあります。せっかく、白鬚地区の先駆的で大胆な取り組みがあるにもかかわらず。

 まさに「防災都市」というスローガンのもとで、地域の本来の心身ともに豊かな生活を失ってしまう。そういう今こそ、改めてこの書、「空間人類学」への評価が高まっていくのではないでしょうか。とりわけ「人類」というもの言いに。
 
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする