おやじのつぶやき

おやじの日々の暮らしぶりや世の中の見聞きしたことへの思い

読書「風土」(福永武彦)P+D BOOKS 小学館

2016-08-31 22:55:11 | 読書無限
 このあいだ、久々に近所の図書館に出かけたところ、新刊のコーナーに置いてありました。福永武彦の「風土」。昔読んだことのある、印象深い小説。
 それよりも何よりもこの書籍。一風変わった装丁。定価も650円+消費税。今どきの本は、文庫本や新書版以外はロクでもないものでも何でも1000円2000円は取られる。その中でのこの値段。

「P+D」とは、ペーパーバック&デジタルの略称。
初回ラインアップは、16 作品。
 松本清張氏の初単行本化された幻の作品「山中鹿之助」をはじめ、丹羽文雄「親鸞」、澁澤龍彦「サド復活」、中上健次「鳳仙花」、立原正秋「剣ヶ崎・白い罌粟」、水上勉「秋夜」、栗本薫「魔界水滸伝」、山口瞳「居酒屋兆治」、北杜夫「どくとるマンボウ追想記」などなど、錚々たる昭和の大作家たちの代表作、お宝作品が目白押しです。
 デジタルの手軽さを生かしお好きな時間、場所でお読みいただいたり、じっくりとお時間を取り、自分本位の読書スタイルで熟読いただいたりと、自由な読書時間が広がります。

(以上「小学館」HPより) 

 基本はデジタル版のようですが、こうして従来の活字本も同じ価格設定です。
HPにもあるように、絶版になって入手困難な作品や単行本化されていなかった作品など「お宝作品」が出版・配信されているようです。

 さっそく借りてきて読んでいます。率直に言って安心して読める、落ちついて読める、というか予定調和的な作風。福永さんのこうした作風は、後の辻邦生さんにも影響を与えています。
 しかし、その内容はけっして調和的、穏やかなものではありません。「穏やかさ」の奥底に潜む人間の生の実相、突き詰めれば愛(性)の不思議さ、時代(の変化)に翻弄される男女の生き様・・・、
 関東大震災から第二次大戦という、日本のみならず世界が激しく揺れ動いた16年間。そうした激動の時代に翻弄されつつも自我、意志をとことん見つめていく中での獲得した地平。それも実は儚いものに過ぎない。・・・
 特に第二次世界大戦に突き進み、破滅していく日本。市井の人々の慎ましやかな生き様を奪い、また表現者への圧迫によってそれを奪った、軍国主義へは、冷徹なまなざしで厳しく向きあっています。
 フランス滞在中に他の女性と同乗中に交通事故で死んだ夫、一人娘と日本に戻り暮らす芳枝。長年、その芳枝を忘れることができなかった画家・桂。二人の再会から物語は始まります。ベートーベンのピアノ曲「月光」とゴーギャンのタヒチの女の絵が「狂言回し」として大きな役割を果たす。娘道子に淡い恋心を抱く、ピアニスト早川久邇。登場人物はこの4人。会話・対話劇のスタイルを取りつつ話が展開します。
 人(他者)を愛することの難しさ、お互いの思いのすれ違い、越えられない深淵(とも感じる)。・・・
 いつしか桂を愛するようになった芳枝は桂とフランスで暮らすことを思う。しかし、・・・。
 
 戦争? どうして桂さんはあんなに戦争のことばかり気にしていらしたのだろう。戦争はドイツとポーランドとのこと、遠い海の向こうで起こっていることだ。たとえドイツが攻め寄せて来てもフランスはマジノ線があるのだから、マジノ線は決して破られることはない筈だから、フランスは決して負けることはない、だから大丈夫、きっとうまく行く、ポーランドだけで戦争は終わるでしょう。わたしたちはパリで幸福に暮らせる。桂さんのようにそんなに心配ばかりしなさることはないのだ。わたしたちはまたパリで革命記念日のあの愉しい雰囲気を味わうことが出来る。爆竹が鳴っている、アコルデオンのゆるやかな旋律、三色の提燈が風に揺れている、わたしたちはくるくると廻って踊る、マロニエの上に月が照っている……。
 ――桂さん、桂さん……。
 またかすかに道子が呼んだ。芳枝は振り返ったが、道子はそれきり声を立てなかった。芳枝はほっと溜息を吐いた。風が涼しかった。
――もう秋だわ。
 芳枝はそう呟き、窓を閉めた。硝子戸を越えて、あかるい月影が芳枝の蒼じろい顔を照らし出し、道子の寝台の足許へまで、水のようにさらさらと流れ込んでいた。(P510)

 解説は、福永武彦の長男の池澤夏樹さん。

 福永作品では下記の作品もありました。
    

 これらも懐かしい作品達。若い頃けっこう読んでいましたが、最近はとんとご無沙汰。改めて読んでみようと思いました。
 
 他にも興味深い作品が出版されています。読んでみよう!  
コメント
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