百年文庫「壁」の中に安部公房の短編が収録されています。題して「魔法のチョーク」。飢えの中で、壁に描いた絵が実体となる不思議な赤いチョークをふと手にした貧乏な青年画家。三メートル四方の小さな借り部屋を現実世界から封鎖し、それまでの己に全く満たされかった食欲・所有欲・性欲・・・、欲望のままに、食べ物、ベッド、お金、そして美しい女性(イブ)など次々と描き、我が物とするが、イブによって最後に壁に描かれたピストルで撃たれ、ついには壁に同化してしていく。壁の中で「世界をつくりかえるのは、チョークではない」と涙とともに呟きます。
安部公房。生前、ノーベル文学賞に一番近いと世界から評価され、前衛的な手法で、小説から戯曲まで幅広い創作活動を行っています。「砂の女」「他人の顔」「燃え尽きた地図」などは、映画化されて(監督は、いずれも勅使河原宏)、中でも、「砂の女」の女主人公役はたしか岸田今日子。壮烈な印象を受けた記憶があります。
この作品は、ずばり「壁」という作品集に収められていて、「S・カルマ氏の犯罪」「バベルの塔の狸」「赤い繭」の三部構成のうちの「赤い繭」中での連作の一つとなっています。この場合、「赤い」色のチョークが、キーワード。「赤い」「繭」では、「赤」は、夕焼け色として、安らかな眠りも訪れなければ、活動すべき朝もやってこない、復活なき人生を暗示していました。ここでも、壁と一体化した主人公には現実世界には戻れないことを意味しているようです。最期の一言は、発表当時の1950(昭和25)年、敗戦後5年まだ飢え凍える人々が多くいる世相、一方で、朝鮮戦争勃発という当時の国際・政治情勢を言い表したものでしょう。
ところで、「安部公房全作品」全14巻が、新潮社から昭和40年代後半に出版されました(価は700円)。当時、配本されるたびに、興味深く読み進めたものでした。まだ書棚に置かれています。
安部公房。生前、ノーベル文学賞に一番近いと世界から評価され、前衛的な手法で、小説から戯曲まで幅広い創作活動を行っています。「砂の女」「他人の顔」「燃え尽きた地図」などは、映画化されて(監督は、いずれも勅使河原宏)、中でも、「砂の女」の女主人公役はたしか岸田今日子。壮烈な印象を受けた記憶があります。
この作品は、ずばり「壁」という作品集に収められていて、「S・カルマ氏の犯罪」「バベルの塔の狸」「赤い繭」の三部構成のうちの「赤い繭」中での連作の一つとなっています。この場合、「赤い」色のチョークが、キーワード。「赤い」「繭」では、「赤」は、夕焼け色として、安らかな眠りも訪れなければ、活動すべき朝もやってこない、復活なき人生を暗示していました。ここでも、壁と一体化した主人公には現実世界には戻れないことを意味しているようです。最期の一言は、発表当時の1950(昭和25)年、敗戦後5年まだ飢え凍える人々が多くいる世相、一方で、朝鮮戦争勃発という当時の国際・政治情勢を言い表したものでしょう。
ところで、「安部公房全作品」全14巻が、新潮社から昭和40年代後半に出版されました(価は700円)。当時、配本されるたびに、興味深く読み進めたものでした。まだ書棚に置かれています。
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