一、猿若江戸の初櫓
二、義経千本桜 すし屋
三、連獅子
第二部(夜の部)は”とちり席”が取れず、やむなく前から三列目・右前方の席をゲット。
舞台全体や花道を観るのは難しいものの、大道具・小道具類は細部まで鮮明に見えるし(首などは5メートルほどの至近距離)、脳出血の後遺症を抱える兄・中村福助を気遣う弟・中村芝翫の「大丈夫?」という声もはっきりと聞こえる(福助は歩行が困難で、黒子が二人がかりで補助をしている。)。
さて、夜の部の演目のうち、社会学的・法学的観点から分析の対象となるのは、義経千本桜の三段目「すし屋」である。
「鮨屋の娘お里は、この家にいる弥助と祝言を挙げることになっている。兄のいがみの権太が入ってきて、母から三貫目の金をだまし取って帰ろうとすると、親父の弥左衛門が戻ってきたので、あわてて金を鮨桶に隠して、奧に引っ込む。
帰宅した弥左衛門は、ある生首を鮨桶に隠し、弥助をうやうやしく上座に据えて、維盛(これもり)の首を出せとの詮議が厳しいので隠居所の上市村へ隠れてくれ、という。そこへ、一夜の宿を求める旅人が来る。維盛の妻と子であった。維盛は再会を喜ぶが、事情を知ったお里は嘆くばかりである。以上の事情を知った権太は、したり顔で鮨桶を持って去って行った。・・・」
この演目もやはり設定が重要なのだが、主人公「いがみの権太」は、札付きのならず者で、度を過ぎた素行不良のため、父親の弥左衛門から勘当されていた。
つまり、権太は「イエ」秩序のアウトサイダーである。
権太は、母からせびった銀が入っているはずの鮨桶を持っていくが、中には弥左衛門が持ってきた人の首が入っていた。
この「すり替え」の設定は、「尺には尺を」の首のすり替え(ヘッド・トリック:head trick)に似ている。
作者:並木千柳がシェイクスピアを読んでいたということはあり得ないから、洋の東西を問わず「首のすり替え」が行われていたということなのだろう。
さて、権太が持って行った首は、もちろん維盛の首ではない。
維盛の妻(若葉の内侍)と子(六代君)の供をし、彼女たちを守護した末に追手に討たれた主馬小金吾(しゅめのこきんご)の首であった(主君の妻子の犠牲となり命を失ったことから、ポトラッチ・ポイントは5.0)。
権太は、この首をいったいどうするのだろうか?