「梶原の厳しい詰問に弥左衛門が困っているところへ権太が首桶を抱え内侍と若君を縛って引いてきます。梶原は権太の手柄を賞賛して当座の褒美に頼朝公の陣羽織を与え母子を引き立てて行きます。
計略が水の泡となり、弥左衛門は怒りの刃を権太のわき腹へ突き刺しました。権太は深傷に苦しみながら、間違えて持ち帰った桶の中に首があったので父親の忠義な心が判り、自分の子どもと女房を身代わりに立てて梶原を欺し、これまでの不孝を詫びる心算だったと打ち明けました。
弥左衛門ははじめて知る権太の心根に胸を打たれますが、とき既に遅く、子に手をかけた悔恨の涙にくれるのであります。」
計略が水の泡となり、弥左衛門は怒りの刃を権太のわき腹へ突き刺しました。権太は深傷に苦しみながら、間違えて持ち帰った桶の中に首があったので父親の忠義な心が判り、自分の子どもと女房を身代わりに立てて梶原を欺し、これまでの不孝を詫びる心算だったと打ち明けました。
弥左衛門ははじめて知る権太の心根に胸を打たれますが、とき既に遅く、子に手をかけた悔恨の涙にくれるのであります。」
銀ではなく首の入った鮨桶を見て、権太は即座に父の計略(小金吾の首を維盛の首と偽って献上すること)を見抜き、加えて、自分の妻子を維盛の妻子の身代わりとして差し出したのである(このあたりはいかにも不自然な筋書きである。)。
こうした事情を知らない弥左衛門は、事実確認を行うことなく、直ちに権太に太刀を刺す(こんな風に、事実確認を行わないまま殺人を行ってしまうところは、「魚屋宗五郎」に似ている。)。
ここに至って、ようやく権太は自分の妻子を身代わりにしたことを明かし、
「何ぼ鬼でも蛇心でも、親父さんたまったもんじゃござんせんぜ、母者人、たまったもんじゃごんせんごんせん、可哀や女房倅めがわっと一声、その時は、コレ、血、血、血を吐きました。」
と述べた後、息絶える。
作家、あるいは当時の観客にとっては、ここが最大の「泣き」の場面だったようだが、ここには、主君のための「自己犠牲」が美徳とされていた社会の病理があらわれている。
権太は全くの無駄死にであるが、結果的に人命が犠牲に供されたので、ポトラッチ・ポイントは5.0。
権太の妻子は梶原景時がおそらく寛大な処分を下して命は救うと思われるので、ポトラッチ・ポイントは二人分で2.0。
以上を総合すると、「義経千本桜 すし屋」のポトラッチ・カウントは、12.0(★★★★★★★★★★★★)となる。
ところで、「すし屋」に似た事件が、最近プロ野球の世界で起こった。
それは、ソフトバンクの「人的補償」問題である。
「今回の騒動は、西武がプロテクトから外れていた和田を人的補償として指名し、うちで現役生活をまっとうしたいと願う和田がそれを受け入れられずに引退を伝えたことから始まった。・・・
西武の渡辺久信GMは最初、人的補償として石川柊太、無償は三森大貴がほしいと言ってきたそうです。ソフトバンクにしてみると、それはさすがに飲めないとなり、その後も人的補償に関しては周東佑京や中村晃の名前も出て、それも難しいとなった末、最終的に甲斐野に落ち着いた。」
この件では、和田投手のポトラッチ(「トレードなら引退します」)が奏功した形だが、その犠牲となった甲斐野投手の口からは、次のようなセリフが出たのかもしれない。
「監督さん、たまったもんじゃござんせんぜ、会長さん、たまったもんじゃごんせんごんせん・・・。」