「国立劇場が主催する人形浄瑠璃文楽の2月公演で、人形遣い吉田玉助(57)=写真=が第1部「仮名手本忠臣蔵」の早野勘平を遣う。これまで若手や中堅が中心の鑑賞教室ではこの役をつとめてきたが、いよいよ本公演に登場。5~13日、東京都新宿区の日本青年館ホールで開かれる。
上演される五、六段目は武士から猟師に身をやつした勘平が、討ち入りに加わるため名誉を挽回しようとする場面。妻おかるとその家族も力を貸すが、事態は悪い方へ転がっていく。・・・
見どころは、勘平が切腹した際の語り。「おかるの母たちとのやりとりが重要。掛け合いをうまくできれば」。衣装の色合いが暗く、舞台全体がモノトーンになりがちだからこそ「しっかりした華のある役どころに仕上げたい」と語った。」
見どころは、勘平が切腹した際の語り。「おかるの母たちとのやりとりが重要。掛け合いをうまくできれば」。衣装の色合いが暗く、舞台全体がモノトーンになりがちだからこそ「しっかりした華のある役どころに仕上げたい」と語った。」
国立劇場が改築中のため、ラッキーなことに、職場に近いところで文楽公演が開催されるというので、第一部を観に行った(会場を長期間押さえられなかったせいか、開催期間が9日間と短く、日程が合わないので第二部と第三部には行けずじまい.。)。
第一部の12時から14時20分という時間帯は、昼休みの時間を含めて仕事の合間に行けるのでありがたい。
もっとも、会場は一般の多目的ホールのため、国立劇場のように弁当を売っていないのは難点である。
メインは、「仮名手本忠臣蔵」の5・6段目。
開幕前の豊竹呂太夫の紹介の時、客席から「待ってました!」という掛け声がかかる。
文楽における主役は太夫であり、人形遣いは太夫のセリフに合わせる立場のようである。
豊竹呂太夫は4人の人物の声を使い分けるが、とりわけ切腹する勘平は迫真の演技で、この人は”プチ切腹”をしたことがあるんじゃないかと思えてくるほどである。
また、彼の話ぶりを実際に聞くと、日本で「声優」という職業が発展した理由がよく分かるような気がする(そうすると、人形→アニメ、太夫→声優ということか?)。
主君:塩谷判官の一大事の際、妻のおかると色ごとに耽っていて立ち会えなかった勘平は、今は浪人の身となり、狩りをして暮らしている。
勘平は、「殿の御大事に外れたる」ことを悔いる余り、おかるを廓に売って、仇討ちのための軍資金を作ろうとする(ポトラッチ・ポイント1.0)。
おかるの父:与市兵衛は、おかるの身売り代金100両のうち半分の50両を持って帰る途中、強盗:斧定九郎に遭い、殺害される(仇討ち資金のために命を犠牲にしたので、ポトラッチ・カウントは5.0)。
だが、その時、イノシシを目掛けて撃った勘平の鉄砲が定九郎に命中し、定九郎は絶命する。
この経緯を知らない勘平は、死んだ定九郎が持っていた財布を発見し、これを自宅に持ち帰る。
妻と婿が与市兵衛の帰りを待っていたところ、殺害された与市兵衛の遺体が運び込まれる。
与市兵衛の突然の死に妻は悲嘆にくれるが、婿の勘平はなぜか泣きもしない。
これを不審に思った与市兵衛の妻は、勘平が血の付いた財布を持っていることに気づき、彼を与市兵衛殺しの犯人と決めつける。
「父様(ととさま)を返せ!」と激しく非難された勘平は、無罪の証明が出来ない状況に追い込まれ、切腹を断行する(ポトラッチ・ポイント5.0)。
「魚屋宗五郎」や「義経千本桜~すし屋の段」もそうだが、事実確認を尽くさないまま死んだり殺したりするくだりが、歌舞伎や文楽では頻出する。
ところが、与市兵衛の遺体を見分したところ、弾丸ではなく刀による傷が死因となっていることが判明し、勘平の無実が証明される(最初から遺体を確認しておけばよかったのである。)。
だが、時すでに遅く、勘平は息絶える。
その後、勘平が持っていた50両と残り50両は、仇討ちのための軍資金ではなく、勘平と与市兵衛の供養のための資金に充てられることが決定する。
結局、勘平は完全な”無駄死に”に終わり、おかるの身売りも目的を達することが出来ないことが確定した。
ひどいストーリーであるが、作家及び当時の観客の解釈は、おそらく、
「勘平とおかるがこういう運命に遭うのは、主君の一大事の時に、プライベートを優先させて乳繰り合っていたからであり、因果応報というべきである。」
というものだろう。
現代に置き換えて言うと、「カイシャ存亡の危機にハネムーン休暇をとって海外旅行に出かけたが、戻ってきたらカイシャが倒産しており、整理解雇された。」という事例が考えられる。
これと同様の思考に基づくのが、「単身赴任ハラスメント=新婚の社員やマイホームを新築したばかりの社員に対し単身赴任を余儀なくされるような辞令を好んで発するカイシャ」であろう。
いずれにせよ、
「滅私奉公しないとバチが当たるぞ!」
という思考は、プラーベートを大切にするZ世代には理解不能だろう。
以上を総合すると、「仮名手本忠臣蔵」5・6段目のポトラッチ・カウントは、11.0(★★★★★★★★★★★)となる。