明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 



今回撮影しているうち泉鏡花と永井荷風は作家シリーズ初個展のラインナップ6人のうちの2人である。荷風は荷風がカツ丼吐いて亡くなった部屋でも撮影した。当時、荷風の家に暮らし、遺品を守っていた養子の永井永光さんがご健在で、銀座でバー『へん喜館』を経営しておられお話をうかがった。戦後はなれに住んでいた荷風に子供の永光さんが電話が着たことを知らせに行くと、食べていたカステラを慌てて股の間に隠したという。『カステラ一つもらったことがない』。荷風は居候宅だろうと畳を焼けこげだらけにして七輪で煮炊きをしてしまう。家主の奥さんが部屋を掃除しようとすると飛んで来て、目の前で押し入れに隠した現金を数え始める。この居候は夫婦生活も覗いた。家主は荷風が死んだらみんなばらしてやる、といっていて先に死んでしまった。荷風に家を周旋した不動産屋は有名な先生がみえた、と息子と掃除道具を持ってはりきってかけつけると「余計なことをするな。床下の埃一つ俺の物だ。」散らかり放題、埃が舞う部屋で正座で客を迎える。川本三郎さんは戦争恐怖症のせいでああなってしまったのではないか、と弁護されていたが、間違いなく認知症も入っていただろう。 焼けこげた畳の上で七輪。今度こそやり過ぎないよう、あまり散らかさないようにする。粘土製の七輪に火は起きているけれども、鍋にするか魚を焼くか、明日中には決めなくてはならないだろう。


みそろぎ人形展9月13日(水)〜19日(火)丸善丸の内本店4Fギャラリー (出品写真作品)三遊亭圓朝/泉鏡花/三島由紀夫/夏目漱石/永井荷風
※『タウン誌深川』“明日できること今日はせず”連載4回「哀しい背中」
※深川江戸資料館にて九代目市川團十郎像を展示中。11月12日まで。


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