明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 



ことあるたびにいっていることだが、まことを写すという意味の写真、まったくふざけたネーミングをしてくれたものである。まことなどとは一切関わりたくもなく、もちろん扱いたくもない。なるべくフレームから排除するべく励んで来たが、立体を作り出せば当然そこに陰影が生まれ、それを描きたくなるのが人情というものである。実在した人を作れば、ついその人物が今でも生きているかのように描きたくなる。 今回原作は漫画である。人間で作中と同じポーズを試したら、人間の構造上無理であった。つまり花形満や矢吹丈の前髪、鉄腕アトムの角、さらにいえばクラナッハのヌードと同じで、作者は描きたいように描いておられる。川瀬巴水にしても自分の都合で世界はそう見えるかのように描いている。それを考えると写真は身も蓋もない。と思っていたが、もちろんカメラやレンズに責任があるわけではない. それならば、と永井荷風で試せなかった逆遠近法もなんとなく試せた。言わないと判らないかもしれないが、妙な違和感は感じてもらえるだろう。何もかもが不自然。そのおかげで障子から透けて見える斜線の風も、原作からいただいた、漫画そのままの障子に映る男の影も問題ない。結局不自然なら不自然、バランスの問題らしい。このまま乱歩いうところの“夜の夢こそまこと”に邁進していきたいものである。 田村写真で手漉き和紙にプリント。これによりモニター上での私の生々しい企みも、ぐっと落ち着いてくれる。そのままビリケン商会に搬入に向かう。この一連の手法を評価してくれていたが、これが今迄で一番良い、といってくれた。今迄で、というのがいつからのことかは聞かないでおいた。被写体が人形じゃない、というのが複雑ではあるが、頭の中のイメージを取り出すためには、どんな卑怯な手でも使うぜ、と昔からいっている。

※『拝啓つげ義春様』
 (前期)2017年9月30日(土)~10月15日(日)『ゲンセンカン主人』出品予定
 (後期)21017年10月21日(土)~11月5日(日)
ビリケンギャラリー
 住所:〒107-0062 東京都港区南青山5-17-6-101
 TEL:03-3400-2214
 営業時間:12:00 ~19:00(月曜休)
 ホームページ:http://www.billiken-shokai.co.jp/

※『タウン誌深川』“明日できること今日はせず”連載4回「哀しい背中」
※深川江戸資料館にて九代目市川團十郎像を展示中。11月12日まで。

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