明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 



葛飾北斎は身長が180センチあったらしい。江戸時代であれば大変な大男であろう。つまり、その姿をひと目見た人間は、まずデカイ。と思ったはずである。制作途中の北斎は、目の前1メーター数十センチ辺りの何物かを凝視して前のめりに座っている状態である。作業中なのでたすきがけをしている。太宰の首や三島が最後に目にした光景を制作している間、途中で放っておいたが、作りながら慣れてしまった目を、新たにするには放っておくに限る。180センチというには、その感じが薄い。改めて粘土を足してみている。 墨田区の北斎美術館には娘と北斎の実物大模型があるが、これが170センチにも届いているかどうかのただのリアルな老人である。せっかく展示しているのに、肝腎の顔が見えないくらい伏せているのも、顔を上げられない理由がありそうである。少なくとも何故だか大男では全くない。 私が参考にしたのは、北斎の杖をついた自画像である。小学3年から4年になる時、妊娠した教師の代わりに1年だけ受け持った田中先生が、私が図書室の人物伝の類いを片っ端から読んでいるので、学校を去る際に、ポケットマネーで内緒で買ってくれた世界偉人伝に載っていた北斎である。人物伝好きが高じてこんなことになってしまった。人間ほど面白い物はない。これが内容もさることながら、その形にも興味があったから、力道山時代から毎週様々な人種の裸を見続け、頭に入ってしまった。後に、学ぼうとして学んだことは、役に立たない、という自身の特徴にも早めに気付けて良かった。

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