ベストセラー作家。中山千里の同名小説を、『8年越しの花嫁 奇跡の実話』で主演した佐藤健と監督した瀬々敬久のコンビで映像化。
鍵を握る刑事として阿部寛が共演している。
東日本大震災から9年後。
宮城県内の都市部で全身を縛られたまま放置され、餓死させるという凄惨な殺人事件が2度連続して起こる。
空き家になっており、長年誰も使っていない場所。そんな物件を把握しており、土地勘のある者の犯行であることがうかがえた。
宮城県警捜査一課の笘篠(阿部寛)など刑事たちが聞き込むと、被害者はいずれも〝善人〟〝人格者〟だという。
やがて、その2つの事件に共通項があることを見つけ出し、利根泰久(佐藤健)を容疑者として浮かび上がらせる。
利根は、放火犯として傷害事件を起こして服役後、刑期を終えて出所したばかりだった。そんな中、第3の事件が起こってしまう。
それは、笘篠自身も経験している辛い記憶の中にあることとも関係していた。
やがて、事件は思わぬ方向へと…。
少しでも、“福祉”(大雑把にでも)のことを知っているかどうかで、映画の視点が変わるのかも。
それぞれの立場で、行き過ぎた行動をとってしまったり、行政のおざなり仕事に反応してしまうこともあるだろう。
独り暮らし世帯が増加している。そんな中で、助けてもらえる親戚を探るというのは難しくなっているのかもしれない。
兄弟、姉妹、子ども、親戚。関係性の薄い親族までにも連絡されるので、自分が生活保護を受けようとするのがわかってしまう。
この映画はその、生活保護がテーマ。震災時の物語と現在が行き交う。冒頭は大震災直後の場面から始まる。
お国に迷惑はかけられない、恥ずかしいという気持ちが軸にある人と、権利として使えばいいと割り切れる人。
そんな制度があることさえ知らない人。
生活保護は国民の税金で成り立つもの。本当に必要な人が受給できる制度でないといけない。
その信念をもって生活保護のワーカーを務めている円山幹子を演じるのは清原果耶。
生活困窮で亡くなってしまう老女・遠島けいを倍賞美津子が演じる。
笘篠のバディを組む刑事・蓮田智彦には林遣都。円山の上司・三雲忠勝を永山瑛太、その上司・城之内猛は緒形直人が演じる。
福祉政策の充実を掲げる政治家・上崎岳大は吉岡秀隆と、厚みのあるキャストだ。
清原果耶はこの映画、朝ドラ「おかえりモネ」と東日本大震災時の傷を抱えた役どころ。
長きにわたり大震災にかかわる問題と向き合ってきたと思う。この映画では、新たな一面を見せる。静の演技と動の演技の使い分け。
大物女優への道…を歩み始めるだろう。
個人的には、今年一番うならされた作品だ。