主催者の野田秀樹は、フライヤー(チラシ)にこう書いている。
「兎、波を走る」は、知られざるコトワザである。誰も知らないコトワザを諺と読んでいい
のか?という不条理は、おいといて、私がこの芝居を書こうと決めた時、この題名がそれこ
そ向こうから走ってやって来た。
そして、いたたまれない気持ちに、幾度も襲われた。だから、この芝居を観た方々にこの
「兎、波を走る」という響きから、「なんともいたたまれない不条理」を感じとっていただ
ければと切に願う。切に願うとしか申し上げようがない。全力で書いたけれども作家の無力
をこれほど感じることはない。「あーーー」としか言いようがない不条理なお話なのである。
だから、話は不思議の国の「アリス」で始まる。
脱兎(高橋一生)を追って不思議の国に行ってしまったアリス(多部未華子)と、娘を探し
続けるアリスの母(松たか子)の物語という主軸と、第一、第二の作家が競作するアリスの
物語が交錯する。
ラスト30分で前半部分と後半部分がつながる。”うつけの国”にいたアリスの母と”地上の楽園”
と言われる国から脱走した兎と、捕らわれていたアリスの物語が重なっていく。
劇団・夢の遊民社のころのように、セリフを言いながら転がる。走る。飛ぶ。という演出は
変わらないが、パソコンからの動画やプロジェクションマッピングといった技術も使われて
いる。また、鏡を使って舞台を広く見せ、またそれが、演者たちの後ろ姿が正面を映し出す
効果もある。二人の作家がAIによって動かされ、同じ物語を書いてしまうなど今日的な問題
も取り入れられている。しかも、いいのかな、ここに触れてこの国に触れてという衝撃的展
開が待ち受ける。
ちなみに、「兎、波を走る」という諺の意味は、月影が水面に映っているたとえで、波が白
く輝いて、兎が走っているように見えることから、月影が水面に映るさまをいう。
最近、NODA・MAP公演は小難しいばかりでついていけないと感じることがあった。この作
品は久しぶりにワクワク。途中からはドキドキして、鑑賞後、誰かに話したくなった。さす
がの野田秀樹。そして、さすがの松たか子。舞台作品経験の豊富さで二つの国を行き来する。
兎を演じた高橋一生と松たか子はドラマ「カルテット」で共演している。とぼけた演技と絶
妙の間合いで丁々発止やりあっていた仲。その息のあったところもこの作品の見どころ。多
部未華子もかわいらしかった。
出演は他に、秋山菜津子、大倉孝二、大鶴佐助、山崎一、野田秀樹など。
東京公演は既に終了し、大阪公演は8月13日まで。その後、博多公演は8月17ー8月27日ま
でとなっている。
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