直木賞候補になった貫井徳郎の小説「愚行録」の映画化。日常的の積み重ねられる妬み嫉みや歪みを絡めたミステリー。
ロマン・ポランスキーらを排出したポーランド国立映画大学で学び、短編作品を中心に手掛けてきた石川慶監督の長編監督デビュー作品である。カメラマンもポーランド国立映画大学出身のポーランド人である。脚本は「マイ・バック・ページ」の向井康介が担当した。
あるとき、エリートサラリーマンの田向一家が殺害される。犯人の手掛りがないまま一年が過ぎ、改めて事件を追うべく週刊誌記者の田中は取材を始める。
関係者のインタビューから、被害者一家や証言者自身の実像が明らかとなるなか、事件の真相が思わぬ方向に進んでいく。
時系列で過去と現在が行ったり来たりになっているが、現在はシロのトーンで、過去は緑っぽいトーンの色彩で描かれていく。
この映像が秀逸で、過去パートの画面が粘っぽく、巻きついてくる感じのじめじめした雰囲気が怖さを増幅させる。ムズムズしたり、驚嘆したり。ねっとり感が本物。
鑑賞後も余韻があり、気持ちを引きずるが、このシーンはあそこでつながってるのかと、内容が降りてきたりした。
登場人物はひと癖もふた癖もある。全員が悪人なので心してかかろう。
主人公の田中役には妻夫木聡、田中の妹・光子を演じるのは満島ひかり。何度も共演してきた二人の、鉄板の兄妹役に注目。テンションを上げる演技でない分、淡々と進む分、想像を掻き立てられる出来。妻夫木聡本人が、田中をやりたいと立候補していた。
いわゆる、幸福に育ってきた人、ほがらかに育ってきた人からの視線からは、ありえない話の積み重ねにしか捉えるとこができないかもしれないが、実際には日常生活にはいつでも誰にでも起こりうる話で絵空事ではない。ギリギリの線で生きている人は少なからずいるものだ。
『そこのみで光り輝く』や『悪人』もいわば、社会的底辺の人たちを取り上げている。そこでしか生きられない人、そこに生きてしまう人はいてしまう。もしかしたら、何かのきっかけで自分も。。。と。
今年初!のオススメ作品。映画が好きなら人なら、この作品は納得できるはず。配給はワーナー・ブラザーズ映画とオフィス北野。そう、オフィス北野が絡んでいるのだから、一筋縄ではいかない展開だ。
(2月18日、公開)