『スター・ウォーズ 「マンダロリアン」 シーズン1 公式アートブック』が12月8日に発売になる。
訳していて思ったのだが、『スター・ウォーズ』と『マンダロリアン』が日本の映画にどれだけ影響を受けているか、そのあたりが実によく書けている。
主人公のマンダロリアンと幼いザ・チャイルドの組み合わせは、小池一夫原作、小島剛夕画の1970 年代の日本の時代劇漫画『子連れ狼』および若山富三郎主演のその映画シリーズ*9に影響を受けている。『子連れ狼』の舞台は日本の江戸時代、柳生烈堂率いる柳生
一族に妻をはじめとする拝一族を惨殺された「浪人」拝一刀は、息子の大五郎を乳母車に乗せて復讐の旅に出る。賞金稼ぎのギルドのエージェントであるグリーフ・カルガと同じように、烈堂は一刀と大五郎の首に賞金を掛ける。これによって一刀はいつどこから襲いくるかわからない敵から大五郎を守らなければならない。勧善懲悪、弱きを助け強きを挫くという一刀の大義の高潔さによって、敵ではあるが人を殺害する残忍さは相殺される。
黒澤明の『七人の侍』にも、『スター・ウォーズ』は(そして『マンダロリアン』チャプター4「楽園」も)大きな影響を受けている* 10。7 人のひとりである菊千代は型破りの乱暴者で、農民の出自であることを隠して浪人であるかのように振る舞う。この菊千代が燃え上がる水車小屋の前で、ただひとり助け出した赤ん坊を腕に重ねて絶叫する。「こいつは俺だ! 俺もこの通りだったんだ!」
「一匹狼」の多くは、悲劇的状況に置かれてそうならざるを得なくなる。一族を皆殺しにされた拝一刀、野武士に両親を殺害され* 11 孤児として育った菊千代、『エピソード2/クローンの攻撃』で父ジャンゴ・フェットが首を刎ねられるのを目の当たりにするボバ・フェット、クローン戦争中に分離主義勢力のB2 スーパー・バトル・ドロイドに故郷の惑星を襲われ、両親が殺害されるのを目にした幼いマンダロリアン(ディン・ジャリン)。一刀も菊千代もボバ・フェットもマンダロリアンも、自分たちを苦しめる心理的な悪魔と感情的な悪霊を打ちのめすために、動き続ける。過去に経験した無秩序を正すために、統制と秩序を求めるのだ。かつて襲われた者は、今は襲う者(ハンター)だ。(『スター・ウォーズ 「マンダロリアン」 シーズン1 公式アートブック』12ページ)
最近『最後のダ・ヴィンチの真実 510億円の「傑作」に群がった欲望』(集英社インターナショナル、本書のインスパイアされた『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』が大ヒット公開中だ)や『ハックルベリー・フィンの冒険』(講談社青い鳥文庫)を訳してみて、特にノンフィクション翻訳や評価の定まった古典翻訳は、註を効果的につけられるかどうかで、原作をより楽しめるものができるのではないかと思いつつある。
今回の『スター・ウォーズ「マンダロリアン」 シーズン1 公式アートブック』は原書の本文に空白が目についたので、映画、製作関係者、撮影法など、日本人の読者になじみがないと思われるものには以下のような注を施した。
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*9:79ページ*2参照。若山富三郎が主演したのは映画化作品で、日本ではむしろ萬屋錦之介主演のテレビ時代劇(1973~1976年)の知名度の方が高いかもしれない。/*10:ルーカス本人は黒澤明作品の影響としてむしろ『隠し砦の三悪人』(1958年)との類似を語っていた(千秋実演じる太平と藤原釜足演じる又七がC-3POとR2-D2のモデルとなったという)。また『クローン・ウォーズ』シーズン2 のエピソード17の邦訳タイトルは「七人の傭兵」である(原題Bounty Hunters)。/*11:菊千代(本名ではなく盗んだ家系図に書かれていた名前である)が両親を野武士(盗賊)に殺害されたことを示すエピソードは『七人の侍』には登場しない。おそらく戦火で両親を失ったのだと思われる。
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『スター・ウォーズ「マンダロリアン」 シーズン1 公式アートブック』には、宮崎駿の映画に『マンダロリアン』が影響を受けたことも記されている。ぜひご確認いただきたい。
『スター・ウォーズ「マンダロリアン」 シーズン1 公式アートブック』12月8日発売予定です。『STAR WARS スター・ウォーズ ライトセーバー大図鑑』のように忽ち品切れということは今回はないと願っていますが、お早めにお買い求めいただいたほうがいいかもしれません。
よろしくお願いします。
This is the way!
『スター・ウォーズ 「マンダロリアン」 シーズン1 公式アートブック』、見本到着。
さすがに巨大でサイン本用販促本を含めて16冊、ダンボール2箱で届きました。(グラフィック社のご担当の竪山さま、本当にありがとうございます!)
グラフィック社の皆さんと相談して、原書は本文にやや空白が目立つので横幅を少し絞ったものの、コンセプトアートの迫力は決して失いたくないので、縦幅は少し大きくしました。
その結果、縦291mm、横546ミリの圧倒的な大きさになりました!
現在関連映画公開中の単行本『最後のダ・ヴィンチの真実 510億円の「傑作」に群がった欲望』、そして文庫サイズの『ハックルベリー・フィンの冒険』と比べていただければ、その大きさはおわかりだと思います。
そして原書には空白部分もあったので、翻訳書ではその部分に注をおぎなっています。
https://blog.goo.ne.jp/getupenglish/e/ac7bebd5c47c70a16721623581917df6
値段は原書とほぼ同じ、4950円(税込)! がんばりました!
12月8日発売予定です。『STAR WARS スター・ウォーズ ライトセーバー大図鑑』のように忽ち品切れということは今回はないと願っていますが、お早めにお買い求めいただいたほうがいいかもしれません。
よろしくお願いします。
This is the way!
『スター・ウォーズ 『マンダロリアン』 シーズン1 公式アートブック』
現在Disney+(ディズニープラス)で配信中の「スター・ウォーズ」初の実写ドラマシリーズ『マンダロリアン』シーズン1の公式アートブックが、日本語翻訳版となってついに登場。
制作にあたって描かれたキャラクター、衣装のスケッチ、クリーチャー、ビークルのデザインのコンセプトアートが収められているほか、主要キャストや制作スタッフとのインタビューも掲載されています。
『スター・ウォーズ 『マンダロリアン』 シーズン1 公式アートブック』
フィル・ショスタク (著), ダグ・チャン (その他), 上杉 隼人 (翻訳)
仕様:256P
定価:4950円(10%税込)
ISBN:978-4766135862
フランス語の辞書『プチ・ローべル』のオンライン版に、男女どちらにも収まらない人称代名詞leiが見出し語として収録され、激しい議論を引き起こしている。
今日のGetUpEnglishはこのニュースを読んでみる。
It’s a neutral pronoun that’s proving anything but: A nonbinary pronoun added to an esteemed French dictionary has ignited a fierce linguistic squabble in the country.
anything butはAsahi Weekly、December 5, 2021のCheck Pointの説明がすばらしい。
anything butはHe is anything but a genius.(彼は決して天才ではない)のように用いられ、「~以外の何ものでもある」⇒「何でもいいが~はだめだ」⇒「決して~ではない」と解釈できます。
nothing but(~以外の何物でもない)の否定を肯定に変えればanything butになります。このbutはexceptと同じで「~のほか、以外です」。したがって、この英文は「それ(後出のlei)は中性代名詞のひとつだが、(フランス国内の反発があり)決してそうはなりえないものだ」となります。
nonbinary: アメリカ英語では一般的で、he or sheやshe or heの変わるに使われる性自認が男性でも女性でもない単数形のtheyのこと。
squabble: 口論
Le Petit Robert introduced the word “iel” — an amalgamation of “il” (he) and “elle” (she) — to its online edition last month. While the term is gaining currency among young people, it is still far from being widely used, or even understood, by many French speakers.
amalgamation: 融合体
gain(ing) currency among: ~に広く受け入れられる。currencyは「流通」。