内閣府調査「子ども手当43%が貯蓄に回る」の読み方

2010-05-03 08:46:35 | Weblog

 次の衆議院選挙で政権党を決めることとして、それまで国の政治を不安定とする衆参ねじれは阻止されるべき

 昨5月2日日曜日フジテレビ「新報道2001」で長妻厚労相が出演、子ども手当の効果についての討論を行っていた。要するに15歳までの子ども1人当て22年度は13000円、次年度からは予定では満額26000円の現金支給は果して少子化対策になるのか、保育所の整備といった保育サービスの充実その他の現物支給こそが少子化対策になるのではの少子化対策から見た肯定論・否定論、そして財源論から見た肯定論・否定論、経済効果から見た肯定論・否定論の遣り取りが例の如くというか、子ども手当を議論するとき、どの番組でも行われる構図で展開されていた。

 ここでは子ども手当が貯蓄に回って経済効果が見込まれないとする議論に主として焦点を当てることにした。

 番組は最初に年収別と子どもがいる、いないの家庭をモデルに子ども手当が支給される場合の収入の増減を弾き出して、高額所得者程有利となる構図を描いて見せた。

 長妻厚労相は先ず現金支給の正当化を図るべく、日本が先進国の中で子どもにかける国の予算が圧倒的に少ないことの例として05年度の「各国の子ども関係予算の対GDP比の比較」を挙げ、それと関連付けてのことなのか、「各国出生率」をフリップで示した。

 (対GDP費子ども関係予算)

 日本  ――0.81%
 米国  ――0.60%
 カナダ ――1.60%
 イタリア――1.36%
 ドイツ  ――2.22%
 フランス――3.00%
 イギリス――3.19%

 (出生率・2008年度)

 日本  ――1.37
 米国  ――2.12(07年)
 カナダ ――1.66(07年)
 イタリア――1.41
 ドイツ ――1.38
 フランス――2.02 
 イギリス――1.96

 長妻「現金支給も足りない、現物支給藻足りない。車の両輪として充実させていく」

 98歳になって聖路加国際病院理事長で同病院名誉院長だという日野原重明「子ども手当は少子化対策にならない。働いていて、結婚して、子どもが産める状況が必要。産科が少ない・・・・」

 次に子ども手当支給に所得制限がないことが否定的要素として取り上げられた。

 長妻厚労相「現金支給の部分では所得制限がないが、(扶養控除、配偶者控除等の)控除をやめて、手当に振り向ける。若年者控除――15歳以下の控除は外していく。控除というのは年収の高い人程有利。絶対金額がある意味、得をする。実質的な控除をなくして、手当を支給する。セットで考えると、実質的手取りは年収の高い人程少なくなる」

 要するに子ども手当を高額所得者にも所得制限なく平等に支給する代わりに収入にかける各控除をなくして、所得税に上乗せして徴収する分を子ども手当から差引きされる形を取らせて、その分子ども手当は少なくなという論法となっている。

 次に長妻厚労相は2700人の子どものいる女性に聞いた「少子化対策で重視するものは何か」の2009年1月~2月内閣府調査のフリップを取り出した。

 1.経済的支援措置――72.3%
 2.保育所などの子ども預かる事業の拡充――38.1%
 3.出産・育児のための休業、短時間労働――35.1%
 4.出産・子育て退職後の再就職支援――32.9%

 いわば72.3%の母親が経済的に困窮、あるいは逼迫していて、子育てに現物支給以上に経済的支援を必要としている状況にあり、子ども手当という現金支給の間違いではないことの正当性を紹介している。

 そしてそのフリップに付属させた65歳以上高齢者1人を支える社会保障体制が1990年は現役世代5人であったのに対して2009年には現役世代3人となっている現状、さらに2055年には現役世代1人となる図を通して少子化の進捗状況を示し、如何に少子化対策が喫緊の課題となっているかを示唆することで同じく子ども手当支給の正当性を主張している。 
 
 ここでコメンテーターの映画監督崔洋一が異を唱えた。

 崔洋一「大臣お言葉ですけれども、同じ内閣府の調査で、昨日の新聞に出ていましたけど、子ども手当全額支給になったら、どうするかと言う、そういう調査を同じ内閣府がやっていらっしゃるんだけど、そのうちの43%が預貯金にまわす。そういう結果がでている。

 つまり、ここで見えることは何か。生活実感として生活安定がない限り少子化対策にはならないという一つの方向性がこの調査から見えているのではないでしょうか

 長妻「子ども手当については、かつての政権の定額給付金のような景気対策じゃない。結果的には景気によくなると思うが、預金すると確かに経済効果はないだろうが、将来子どものために貯金すると言うことで、しかもお子さんを育てるということは子ども手当を貯金をしても、おカネに色はないから、子がいるというだけで、お子さんのいない家庭に較べて、支出は多いわけです。お子さんがいるということでもうおカネを使っているわけでありまして、社会全体が子育てを応援していきましょうと、こういうメッセージで、少子化の流れを変えるというのも、一つの目的であります」

 民主党のマニフェストでは需要喚起を目的の一つとしていたはずだが、その見込みが怪しくなったのか、ここでは触れていない。

 確かに崔監督が言っているように、「生活実感として生活安定がない限り少子化対策にはならない」のは事実であろう。このことは子どもを産む・産まない以前の問題として、低収入の派遣社員の非婚率の高さが証明している。結婚もカネ、出産もカネ、当然子育てもカネ、カネが常に立ちはだかっている。「生活安定」こそが結婚の保証となり、出産・子育ての保証となる。

 だが、夫婦の生活さえどうにか遣り繰りできれば、出産以降の子育ては子ども手当を当てにすることで計算可能となり、この場合は全額支給の月26000円が必要となるが、子ども手当が「生活安定」の一助とならないわけではないだろう。

 当然のことだが、子育てという生活要素が加わっても「生活安定」の保証条件となる全額支給26000円を当てにする家庭の場合、それが半額だったり、保育所整備といった現物支給にまわすために削られた場合、子育ての計算は困難となって、出産・子育てを諦める夫婦が出てくることも予想される。

 また、子ども手当を計算に入れた「生活安定」が出産を保証したとしても、それが第二子に向かう保証とはならない。子どもを預ける保育所等の現物支給が未整備の場合、第二子分の子ども手当は豚に小判の役目しか果たさなくなる。

 このことは第一子の場合にも言えることだが、「生活安定」が保証されさえすれば、自分の子どもを持ち、この世に残すという本能が子どもを預けることに苦労しても、どうにか遣り繰りするのではないだろうか。

 夫の収入によって「生活安定」が保証されて専業主婦でいられる場合は現物支給に関係なく2人目も設けることができる。

 要するに国民の大多数を占める中低所得層に関して言うと、少子化対策に於ける「生活安定」は初期的条件でしかないと言えなくもない。

 崔監督が言っていた内閣府の「子ども手当」の最も優先したい使い道を尋ねた調査を伝えている、《子ども手当 43%が貯蓄に》NHK/10年4月30日 4時20分)を見てみる。

 調査は去年11月、第1子が0歳から中学3年生までの子どもを持つ親2万4500人余りを対象にインターネットで行い、45%にあたる1万1145人から回答を得たという。
 
 「最も優先したい使い道」

 1.「子どもの将来のための貯蓄」――43%
 2.「日常の生活費に補てん」  ――11%
 3.「子どもの保育費」     ――11%、
 4.「子どもの習い事などの費用」――10%  

 上の結果は、1.は生活に相当に余裕のある中高所得層、2.は生活に余裕の少ない、あるいは全然余裕のない低所得層、3.は生活に余裕の少ない中所得層、4.はかなり生活に余裕のある中所得層プラス高所得層とある程度重なっていると見ることもできる。

 「子どもの将来のための貯蓄」――43%が生活に相当に余裕のある中高所得層だとするこの見方が正しければ、この43%を把えた崔監督の「生活実感として生活安定がない限り少子化対策にはならない」は内容的には正しい主張だとしても、間違えた43%の把え方とはならないだろうか。

 記事は次に「貯蓄」に充てたいという親の内訳の統計を伝えている。
 
 「貯蓄」に充てたいという親の内訳
 
 1.保育所や幼稚園に通っていない「未就園児」を持つ親――55%
 2.「小学生」の親――42%
 3.「中学生」の親――29%

 この傾向を記事は、〈子どもが大きくなるにつれて貯蓄の希望は減少し、習い事などに充てたいという親が増えていることが窺え〉ると解説している。

 貯蓄にまわすの43%に対して、日常的生活費への補填と子どものために使うを含めて消費が合計で32%。但し貯蓄にまわす43%の親の場合でも、子どもの将来的な成長段階に応じて消費に向かう傾向が現れているということであろう。

 29%は貯蓄にまわすという「中学生」の親にしても、高校無償化と言っても、塾に通う高校生活に備えたり、さらにその先の大学入学や入学以降の大学生活に備える意味の貯蓄の可能性が考えられるから、当初は貯蓄という形で寝かすことになっても、段階的に消費に向かい、一定の期間を置いて消費が循環することになるのではないだろうか。

 尤も政権が変われば、政権の運命と共に子ども手当の運命も分からなくなる。

 要するに43%の親が子ども手当を支給された場合、「子どもの将来のための貯蓄」にまわすからといって、社会全体で子どもを育てるという趣旨にしても経済効果にしても、また少子化対策にしてもが完全に否定できるわけではなく、「子どもの将来のための貯蓄」にまわす43%はかなり生活に余裕のある所得層であって、生活に余裕のない中低所得層にとっては消費効果も出産・子育て効果も見込める子ども手当と言うことができるのではないだろうか。

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