誰もが既に気づいていること、あるいは当たり前のことを、自分なりの考えを述べるために記事にしてみる。
アルジェリア天然ガス関連施設がアルジェリア政府軍の厳重な警備下にありながら、その施設へのイスラム武装勢力の襲撃・人質事件を今回可能としたのは、施設内部の従業員に11人の協力者が存在していたこと、武装勢力が国境越えに使用した車両の中に隣国リビアの公用車が含まれていたためにアルジェリア国境警備隊が車列をリビアからの公式の代表団だと考えて、荷物検査をせずに国境を通過させたこと、この二つの点に管理体制の不備があった疑いが浮上しているとマスコミは伝えている。
要するに両事態を疑ってかかる警戒心を喪失していたと言えるが、何よりも厳重な警備体制を潜って施設そのものへの侵入を許したのは内部協力者の存在であろう。
施設内の協力者は武器を予め施設内に運び込んで、隠していたと伝えられている。
だとすると、内部協力者の摘発が襲撃を防ぐ肝心な手段となる。
後付けの知識だと言えば言えるが、部外者には許される後付けの知識ではあっても、施設警備の軍や国境警備隊に関しては前以って備えていなければならない危機管理の知識であるはずだ。
しかも両事態とも映画で、特にアメリカ映画でよく使う手となっているのは現実的可能性があるからだろう。アフガニスタンではアフガニスタン国軍内部やアフガニスタン警察内部にタリバンに対する共鳴者、もしくは協力者が存在して、外国兵に対する射殺事件がかなり頻繁に起きているし、頻繁な情報漏洩も考えなければならない。
内部協力者、もしくは内通者は直接的襲撃者が見える敵で、警備体制がしっかりしていたなら、それなりの対応ができるが、見えない敵であるゆえにより危険である。乗客に紛れて飛行機に乗り込み、操縦室に侵入して飛行機を乗っ取り、自ら操縦して目的の標的物に突っ込んでいき、多数の死傷者を出した9・11のケースも見えない状態で内部に敵を抱え込んだ点で、内部協力者に近い敵と譬えることができる。
また、警備体制が強固であればある程、襲撃対象とするためには内部協力者の存在が必要となる関係が生じることになる。
このような関係からすると、兵員・武器・配置等の警備体制に万全を期すだけではなく、内部協力者の存在を常に疑ってかかる警戒体制を期す必要が生じる。
どうしたら、内部協力者を効果的に摘発できるのだろうか。
内部協力者は元々の従業員を協力者に仕立て上げるか、テロメンバーを従業員として潜り込ませるか、主として二つの方法を考えることができる。
信頼性という点では後者に軍配が上がるはずだ。但し施設の構造や内部の配置、警備体制、人の動静などに関する情報に関しては元々の従業員の方に軍配を上げなければならない。メンバーを従業員として潜り込ませた場合、内部に関する情報取得は他の従業員に悟られないように一から始めなければならないから、時間がかかることになる。
より確実な方法は元々の従業員を協力者に仕立て上げて、さらにテロメンバーを従業員として潜り込ませ、後者をして前者を裏切らないよう監視させて両者の連携のもと、内部偵察と武器の持ち込み、襲撃手順と人質確保等の計画を練ることであろう。
いずれにしても内部協力者を疑う場合、勤務年限の長い従業員だろうと新参者であろうと、疑ってかからなければならないことになる。当然、対象は全員ということになる。
長く務めているからといって、必ずしも信頼出来るわけではない。ある日突然信頼できない者に変身している可能性もある。
従業員全員を内部協力者か否か識別するために個々の動きに張り付いて監視するのでは朝から晩までの時間と人手も膨大な数が必要になり、仕事そのものの障害となる。
より簡便で効果的な方法は、全従業員に対して内部協力者かどうかを識別するための全従業員対象の面接を行なうと通達を出すか社内アナウンスを行なうことではないだろうか。
実際の面接は各部署ごとに昼食時間等を使い、慎重を期してニ人の面接官が一人の従業員を面接、それを複数同時に行えば、時間も人手もそれ程必要としない。
もし内部協力者が存在した場合、内部協力者かどうかを識別するための全従業員対象の面接を行なうという通達やアナウンスを受けただけで動揺しない人間がいるだろうか。
内部協力者にしたら、露見した場合の恐れが先に立つはずだ。
但し面接をより的確にするためには疑わしい従業員はウソ発見器にかけることとし、誰も断ることはできないことを採用条件としていたなら、採用の段階で内部協力者となることの危険、内部協力者として潜り込ませることの危険を察知することになって、摘発以前に内部協力者の出来を防ぐことができるのだはないだろうか。
テロのメンバーを施設に潜り込ませるにしても、どのような試験と面接が行われるか、前以て調査しておかなければ、試験の段階で露見する危険性の有無の判定ができない。
内部協力者かどうかの識別の面接を行う場合、警備体制を最高のレベルに上げなければならない。内部協力者が存在した場合、内部協力者であることの露見を防ぐために襲撃を面接より前に設定する可能性を考慮しなければならない。
何が最も効果的・実効性ある方法なのか分からないが、いずれにしても内部協力者の存在を疑うことを出発点とした警備体制でなければ、国営・民営に関わらず、一般民間人を従業員とする大小施設に対するテロ襲撃は前以て防ぐことはできないことを今回の武装勢力襲撃事件は教えた。
内部協力者を断って、武装勢力を見える敵のみとした場合の襲撃に対する可能な限りの防御が必然的に“人命優先”につながっていく。
もし内部協力者もなしに武装勢力の襲撃を簡単に許して施設そのものを乗っ取られたなら、警備体制そのものに不備があったということで、最早論外ということになる。
安倍政権はアフリカの駐在武官を増員するとか、自衛隊法を改正して、外国の地での邦人保護のために陸路輸送もできるようにするとか、武器使用基準を自衛目的から、敵防防御目的に緩めるとか言っているが、外国の地でそれが日本企業の施設であったとしても、武装勢力に襲撃されて邦人その他が人質となった場合の人質解放と武装勢力制圧の直接交渉当事国に日本がなれるわけではない。
このことは1996年12月の在ペルー日本大使公邸占拠事件で既に経験済みである。
すべては直接交渉当事国にかかっている。アルジェリア政府の「テロリストとは交渉しない」とする姿勢が今回、制圧優先となったのであり、やはり見えない敵である、あるいは最後の最後になって姿を現す、最も危険な要素である内部協力者の前以ての摘発が交渉当事国であるか否かに関わらず、人質をつくらないという意味での“人命優先”となって現れるはずだ。
安倍首相のように単に「人命優先、人命優先」と言っているだけでは、何の解決にもならない。