石破自民党幹事長が今年夏の参院選1人区全員当選だと豪語した。1月1日(2013年)、鳥取市内で記者団に語ったそうだ。
《石破氏「参院選1人区全部勝つ」 ねじれ解消図る》(47NEWS/2013/01/01 11:42【共同通信】)
石破幹事長「(改選)1人区は全部取る。2人区以上の複数区でも確実に議席を取り、安倍内閣の仕事を大胆に進める。
(政権奪還した衆院選結果について)期待票で多くの支持をいただき政権与党になれた。安倍内閣、安倍自民党として答えを出すのが今年だ。まじめに全力でやる」――
正月で些かアルコールが入っていたことからの正月景気でつい大口を叩いたのか、それとも本人としては勝算あっての宣言なのか、はたまた願望が過ぎてつい強気発言となったのか。
勝算は合理的判断能力を裏打ちとして答えを出すことができる。衆院選自民党大勝を「期待票で多くの支持をいただき政権与党になれた」と言っているようでは、自民党幹事長という要職にある者としては合理的判断能力に優れているとはとても言えない。今回の選挙結果は自民党が支持されたと言うよりも民主党政権3年2カ月の体たらくに対するノーの審判であって、その拒絶反応が小選挙区比例代表並立制の当選構造と相まって結果としてプレゼントされることとなった自民党大勝なのは誰の目にも明らかとなっているし、マスコミの多くがこのことを伝えている。
《小選挙区の宿命 自民得票4割、議席8割》(TOKYO Web/2012年12月17日 14時12分)
記事は、衆院選の投票率は現行の小選挙区比例代表並立制が導入された1996年の59・65%が戦後最低の記録を維持していたのに対して、それを下回って戦後最低の記録を塗り替える小選挙区確定投票率59・32%であったと書いているが、この一事を取っても、自民党積極支持ではないことの証明とすることができる。
また、自民党小選挙区全体得票率約43%に対して獲得議席数が全議席の79%を占める237議席なのは小選挙区制の当選構造の恩恵を受けた、自民党大勝の実態といったところだろう。
さらに比例代表獲得議席数が2009年総選挙55議席自民党惨敗から2012年総選挙57席の+2のみも民意の反映として直接現れた、脆弱な自民党支持状況として読み取ることができる。
このことは共同通信社実施12月17日、18両日全国緊急電話世論調査にも現れている。《巨大自民歓迎は33% 世論調査 半数近く判断できず》(TOKYO Web/2012年12月19日 朝刊)
自民党政権復帰について
「よかった」33・3%
「よくなかった」18・6%
「どちらともいえない」47・5%
安倍首相に対する期待度
「期待する」51・2%
「期待しない」44・4%
安倍首相に期待する点
「国を守る、国益を守る姿勢」33・3%
「リーダーシップ」17・5%
「庶民感覚」16・9%
小選挙区・比例区併せて297の大量議席を獲得していながら、安倍晋三に対する期待度が過半数を少し超えただけというのは寂しい限りであるし、「期待しない」が「期待する」に6・8%も迫っている状況は絶対的支持であることから遥かに程遠い期待度ということになる。
また期待する点で「国を守る、国益を守る姿勢」が33・3%となっているが、確かに強い口調で「国を守る、国益を守る姿勢」を示してはいる。だが、姿勢を成果として形を変えるのは偏にリーダーシップにかかっているのに対して、リーダーシップに対する期待度は17・5%と低い信用度しかない。
勿論、参院選までの「政治は結果責任」、どういった成果・結果を出すかに参院選の趨勢は決まってくる。1人区全員当選という結果も可能性としてはあり得るが、現時点での勝算は早合点に過ぎる。
なぜなら石破幹事長は選挙は常に政権党に対する審判の形で行われるという構造を取ることを把握していないからだ。少なくとも上記発言をするに当たって、このことを認識していなかった。
もし認識していたなら、「1人区は全部取る」とか、衆院選結果を「期待票で多くの支持をいただき政権与党になれた」などといった分析はできないはずだ。
選挙が常に政権党に対する審判の形で行われる以上、今夏参院選は既に触れたように安倍政権今後の約7ヶ月間の成果に対する審判の形を取る。
当然、プラスの成果もマイナスの成果も満足に出ていない状況下では有権者にしてもは評価に対する判断の材料を持たない状況下に立たされている。衆院選の結果がそのまま参院選にスライドする保証はないことになる。
また、参院選まで失敗を恐れる消極的姿勢を貫いたなら、逆にリーダーシップを疑われたり、既に政府主催竹島の日祝典開催見送りで総選挙公約との食い違いが出ているように他にも出てくることとなって、「1人区は全部取る」どころか、逆の状況を招きかねない。
勿論安倍政権に有利な材料がないわけではない。参院選まで約7ヶ月間という短い期間、評価材料自体を取捨選択できる点である。安倍晋三が憲法改正など保守色の強い政策や中韓との関係悪化を招きかねない歴史認識問題は当面は封印する考えだと言われているのも、マイナスの評価材料を有権者に与えない取捨選択からだろう。
菅政権も野田政権も長く務めれば務める程支持率が下がっていったが、安倍政権が支持率を下げていくにしても、参院選まで大きな失敗さえ避けることができたなら、程々のところで止まる有利さを抱えることになる。
と言うことは参院選で過半数を獲得したなら、国家主義者の正体を現すということになる。
この点に関してのリーダーシップは太鼓判を押すことができる。但し国民の支持を得ることができるかどうかである。