再調査に応じることはあるかもしれない。だが、形式的な時間稼ぎに終わるような気がする。
終戦前後に朝鮮半島から引き揚げる途中で現在の北朝鮮領内で亡くなった日本人の遺骨の返還問題等を協議する日朝赤十字会の会談が3月19日・20日中国瀋陽で開催され、同時に1年4カ月ぶりとなる政府間協議再開に合意し、日程調整の結果、外務省は3月21日、第2次安倍政権で初となる北朝鮮との外務省局長級の公式協議を3月30、31両日に中国・北京で開催すると発表。
ところが北朝鮮は2月27日と3月3日に国連安保理決議違反となる射程500キロ以上とみられる短距離弾道ミサイルスカッドを日本海に向けて発射していたが、日本の外務省が日朝政府間協議開催の日程を発表した3月21日から5日後の3月26日未明に、同様に国連安保理決議違反となる最大射程距離1300キロ中距離弾道ミサイル「ノドン」と推定されるミサイル2発を日本海側に発射している。
これらの出来事を時系列で纏めてみる。
2月27日――北朝鮮、短距離弾道ミ サイルスカッド発射
3月3日――北朝鮮、同短距離弾道ミ サイルスカッド発射
3月10日~14日――横田夫妻、モンゴルで孫と面会
3月19日・20日――日朝赤十字会談
3月21日――外務省、日朝政府間協議を3月30、31両日に開催と日程発表
3月26日――北朝鮮、最大射程距離1300キロ中距離弾道ミサイル「ノドン」発射
3月30、31日――日朝政府間協議再開
北朝鮮のミサイルの発射に対する国連及び国際社会の反発に対抗する形で北朝鮮外務省は日朝政府間協議が開かれていた3月30日に、「新たな形態の核実験も排除しない」との声明を発表、さらに昨日の4月4日、リ・ドンイル北朝鮮国連次席大使が「我々は新たな形態の核実験を実行する」(MSN産経)と記者会見で述べている。
新たな形態の核実験の実行は北朝鮮のミサイル発射に対する国連安保理の新たな制裁の発動を牽制する目的の威しに過ぎないかも知れないが、こういった状況の中で開催された1年4カ月ぶり3月30、31両日の日朝政府間協議であり、この協議にしても、横田夫妻が3月10日~14日にモンゴルでめぐみさんの娘キム・ウンギョンさん(26)とその家族に面会した北朝鮮の人道的と見える配慮にしても、軍事的に挑発的な北朝鮮自らの姿勢を中和させる目的の平和的姿勢の演出に見えてしまうことが、北朝鮮が拉致解決に応じないと見る根拠の一つである。
メインは誰が見ても、軍事的に挑発的な姿勢であるはずだ。メインが逆なら、ミサイル発射も「新たな形態の核実験」の言及も避けるはずだ。
では、3月30、31両日の日朝政府間協議では北朝鮮は拉致問題についてどのような反応を見せたのか、いくつかの記事を見てみる。
《伊原局長「北朝鮮 融和的だが拉致問題では不確定」》(NHK NEWS WEB/2014年4月2日 21 時37分)
4月2日の自民党拉致問題対策本部会合での日本側出席者伊原局長の発言である。
伊原外務省アジア大洋州局長「北朝鮮は融和的な姿勢を示しているが、拉致問題に前向きかどうかは不確定な要素もある。北朝鮮とは協議を継続させることで合意しており、拉致問題の解決に向けた日本政府の強い姿勢も北朝鮮に伝えた。引き続きしっかり取り組んでいきたい」
〈このあと開かれた〉と書いてあるから、同4月2日開催なのだろう、超党派の議員連盟総会。
伊原局長「北朝鮮のソン・イルホ日朝国交正常化担当大使は、今回の協議で、できるだけ前向きな印象を与えようとしていた。拉致問題については、私の発言を注意深く聞いていて、議論を拒否する感じはなかった」――
「議論を拒否する感じはなかった」。だが、前向きな姿勢は見せなかった。「できるだけ前向きな印象を与えようとしていた」だけであった。具体的な反応を示すのと、印象を振り撒くのとでは大違いである。
北朝鮮のミサイル発射に対して国連安保理が新たな制裁を準備しようとしているときに拉致問題だけを進展させることができないことは北朝鮮も日本側も理解しているはずだ。なぜなら、拉致解決の進展に伴わせて日本側の対北朝鮮制裁の解除や経済支援を発動した場合、国連安保理の新たな制裁に反すばかりか、ミサイルや核問題をも含めたそもそもからの目標であった包括的解決に対する抜け駆けともなるからであり、北朝鮮側からしたら、制裁解除や経済支援といった実利を伴わない拉致解決は意味がなくなる。
同じ伊原局長の発言を扱った次の記事はニュアンスが少々異なっている。《拉致解決「前向きでない」 北朝鮮の協議姿勢で外務省局長》(MSN産経/2014.4.2 22:36)
4月2日自民党拉致問題対策本部会合。
伊原局長「議論を拒否する感じではなかったが、拉致問題に限っては前向き、建設的ではない。北朝鮮の基本的な立場は変わっていない。
(日本側の拉致解決要求に対する宋日昊朝日国交正常化交渉担当大使の態度は)話は注意深く聞いた」――
そして、〈伊原氏は 会合で、日朝協議では全ての拉致被害者の即時帰国と真相究明、実行犯の引き渡しなどを要求したと強調。 拉致問題の解決なくして国交正常化はあり得ないとの立場を重ねて示したと説明した。〉と記事は解説している。
「話は注意深く聞いた」ものの、「拉致問題に限っては前向き、建設的ではな」く、「朝鮮の基本的な立場は変わっていない」と見た。つまり、北朝鮮が基本的な態度としている「拉致は解決済み」に変わりはなかった。
だとすると、政府間協議が軍事的に挑発的な北朝鮮自らの姿勢を中和させる目的の平和的姿勢の演出という見方も一概に見当外れとは言えなくなる。
また、「全ての拉致被害者の即時帰国」はともかく、ウソ偽りのない「真相究明、実行犯の引き渡し」は北朝鮮に国家崩壊といった余程の危機的状況が発生しないことには受け入れることはないだろうとブログに書いてきた。
つまり「全ての拉致被害者の即時帰国」のみを以って最善とし、要求してはならない「真相究明、実行犯の引き渡し」だということである。例え「真相究明、実行犯の引き渡し」に応じることはあっても、2002年のときと同様に身代わりのスケープゴートを用意した「真相究明」であり、既に処罰したという口実のもとの「実行犯の引き渡し」不可能といった経緯を取るに違いない。
もう一つ、北朝鮮が拉致解決の気がないことの根拠は在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部の競売・売却問題である。
このことに関して4月1日、北京空港から北朝鮮帰国の宋日昊・朝日国交正常化交渉担当大使が次のように発言している。《北朝鮮側「総連本部問題、解決なければ関係発展は不要」》(asahi.com/2014年4月1日13時17分)
宋日昊大使「(中央本部の競売問題は)実務的な法律問題ではなく、朝鮮と日本の関係進展のための根本問題だ。我々は(売却問題が)解決できなければ、朝日関係を発展させる必要がないと思っている。(中央本部は)日本の朝鮮同胞の仕事と生活の拠点で、強制売却はあってはならない。
強い憂慮を表明し、必ず解決すべきだと言うことを明確に伝えた」――
いくら日本側に「必ず解決すべきだと言うことを明確に伝えた」としても、競売とその落札に従った売却は司法の決定であって、三権分立の原則上、北朝鮮では可能であっても、日本の政府は口を出すことはできない。
そのことぐらい、北朝鮮も承知しているはずだ。
但し日本政府が落札した企業に特定秘密指定で裏で圧力をかけた場合、中央本部建物を対象として既に否定している貸借関係を朝鮮総連と結ぶ可能性も生じるが、否定から一転した容認が火種となって煙を立たせることとなり、それが露見した場合の予想される政府の立場を失う危険性まで冒すかである。
要するに北朝鮮は解決困難な障害として朝鮮総連売却問題を持ち出し、拉致やミサイル、核問題と同レベルに置いた解決必要事項の「根本問題」に位置づけて、「解決できなければ、朝日関係を発展させる必要がない」と、拉致問題解決の発展を拒絶したのである。
いわば朝鮮総連売却問題を拉致再調査に応じない口実とすることができる。
こういった構図から見ても、拉致解決に応じる気がないように見える。
但し古屋拉致問題担当相の把え方は違っていて、非常に前向きとなっている。4月4日、BS日テレの番組「深層NEWS」での発言。
古屋圭司「(日本側が)すべての拉致被害者を戻すこととしっかり指摘した上で、(北朝鮮側が)日本の立場はわかったと。だから協議をするという意思を示したと言われている。これは大きな向こうの基本スタンスの変化とみられる」(日テレNEWS24)
人それぞれに見方がある。希望を持つことも必要だろう。但し見方を間違えて希望を持った場合、時間の空費だけが待ち構えることになる。